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召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜  作者: 有木珠乃
第1章 偽装夫婦の日常

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第7話 隙だらけのアゼリア

「それで……どうしてグリフィスも帰宅しているの?」


 私の声など、どこ吹く風。鍵を渡してほしいと要求したのにも関わらず、グリフィスは本屋を閉めて私たちと共に帰宅したのだ。


 まぁ、あの本屋自体、グリフィスが経営しているわけだから、開けるのも閉めるのも本人次第だから、何も問題はない。しかも図書館同様、本屋も閑古鳥が鳴いている状態である。だから日中働いていても、定時に私を迎えに来ることができていたのだ。


 それでいいの? とは思うものの、無理をしているような素振りは一切見られないのだから、私が口を出すわけにはいかなかった。グリフィスなりに考えがあってのことなのだろう。


 けれど今回のことは……少し意味が違うような気がした。


「お客様を招くのですから、当然でしょう」

「別に家主がいなくても大丈夫よ?」

「では、お茶の準備など、アゼリアだけでできるのですか?」


 まるで何もできない子のように言うが、実際どこにお客様用のカップがあるとか、茶葉があるのか。私は何も知らなかった。


「そういう言い方は卑怯よ。鍵と一緒に教えてくれればいいだけの話でしょう?」

「……本音を言わせてもらいますと、知らない人間が家に入って来るのが嫌なんです」

「えっと、それは……うん。私もそういうところがあるから分かる……」


 けれどグリフィスと初めて会った時、すぐに家に入れてもらった。あれは良かったのかな?

 あぁ、そうか。緊急事態だったから、グリフィスも気にしなかったのかもしれない。私も判断が鈍っていたし、そもそもこの偽装結婚自体、グリフィスからの提案だったのだから。


「そういうわけですから、そろそろリビングに戻ったらどうですか? いつまでも待たせておくのは失礼ですよ」


 グリフィスの言い分も理解できるけど……なんだろう。この腑に落ちない感情は。


「あとでアゼリアの好きなカモミールティーを持っていきます。他に必要な物はありますか?」

「ないけど……あっ!」


 そういえば私、アレを持っていないんだった。


「どうかしたんですか?」

「実はヘルガに占ってほしいって言われたんだけど、敷物がなくて」

「占い……ですか」


 グリフィスの思案する声に私はハッとなった。いくらヘルガが占いに興味を持ってくれたとしても、それがこの世界の人たちの認識だと思うのは、あまりにも軽率な判断だった。どうして深く考えなかったんだろう。


 さすがのグリフィスでも、軽蔑したかしら。


「それなら、あの布がちょうどよさそうですね。明るめのグレーなんですが」

「え?」

「暗めの方がよろしかったですか? それとも別の色が」

「ううん。それでいい。じゃなくて、それがいい」

「良かったです。お茶と一緒に持っていきますね」


 柔らかい笑みを浮かべると、グリフィスは私に背を向けてキッチンから出て行こうとした。


 色々と行動を制限するのは、私があの黒いフードの男たちに狙われているからで、基本はなんでも肯定してくれるグリフィス。必要なものを揃え、異世界でも何不自由なく過ごせているのは、すべてグリフィスのお陰である。


 そして今も……私のすることを否定せず、必要なものを用意してくれる。これに文句を言ったら罰が当たる。


「グリフィス!」

「ん? なんですか? 他にも必要なものが――……」

「ありがとう。それを言いたかったの」

「いいんですよ。アゼリアは被害者なんですから。私がこうして世話をするのは当たり前のことです」

「え? それはどういうこと?」

「アゼリアはこの世界に来たくて来たわけではありませんよね。だから」


 被害者、だと言いたいらしい。確かにその通りだし、帰り方も分からない。一度グリフィスに聞いたことがあったけれど、「魔術に関することですから、私には……」と言われてしまったのだ。


「せめて私にできることはしたいのです」

「で、でもっ!」

「ここで不毛な議論はやめましょう。今、アゼリアがやるべきことは、お客様のところへ行くことです。違いますか?」


 ううん。グリフィスの言っていることに間違いはない。でもね。素直にお礼を受け入れてくれたっていいのに、と思うのはいけないことなのかな。贅沢な悩み?


 私はトボトボとグリフィスの横を抜け、リビングへと向かおうとした。するとなぜか、後ろから腕を掴まれる。


「アゼリア。何も持たずにリビングへ行く気ですか?」

「だって、ヘルガが待っているから」

「それはそうですが、敷物が必要な占いなら、道具があると思いまして」

「あっ!」


 そうだ。道具。カードがないから家に帰ってきたのに! あー! 恥ずかしい!!


 思わず両手で顔を覆いたいのに、グリフィスに腕を掴まれているからできない。そのもどかしさも相まって、私はその場にしゃがみ込んだ。


「相変わらずアゼリアは世話のし甲斐がありますね」

「面目ない……です」

「いいんですよ。そういうところが気に入っているのですから」

「え?」


 こんなおっちょこちょいで面倒な私を? 年齢イコール彼氏いない歴な女だよ? 気に入る要素なんて、何一つないのに……。


「グリフィス」

「なんですか?」

「変な性癖を持っていたとは思わなかったわ」


 こんな世話の焼ける人間がいいだなんて……。


「何か勘違いしているようですが」

「全然! グリフィスが世話好きだってことを再認識しただけだから」


 それに対して、ずっと申し訳ない気持ちになっていた。世話を焼かれる負担というか。でもそれがグリフィスの性格ならば仕方がない。


 これからは遠慮なく甘えさせてもらおう。

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