表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜  作者: 有木珠乃@2/6コミカライズ配信開始
第3章 甘くて苦い日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/38

第37話 初めて会った場所

「それで、要はこの慈善バザーで、新しいタロットカードを探したい、ということでいいんですね」

「う、うん」


 返事をしながら、隣を歩くグリフィスを見る。幸せオーラを体全体から放っているその姿は嬉しく感じるものの、視界に入る女性陣の視線のことを考えると、なんとも言えなくなった。


 今までも「ねぇ、見た? 今の人、凄くカッコよくない?」とか「隣の人、彼女かな」とかはあったから慣れているけれど、その時と今とでは状況が違う。想いが通じ合った後だと、「あぁいうパッとしないのがタイプなのかな」という否定的な言葉は、純粋に胸に刺さる。お陰で、グリフィスほど幸せ感を味わえなかった。


「あまり乗り気ではなさそうですが」

「えっと、なんていうか……まぁ」


 乗り気ではあるんだけど、外野の声が気になって、なかなか楽しめなかった。グリフィスは逆に、目もくれない。


「周りの声が気になるというのなら、ウサギになりましょうか?」

「えっ!」

「アゼリアは好きでしょう? ウサギの方の私も」


 グリフィスの言う通り、ウサギの姿の方は別の意味で好きである。まさか嫉妬しているの? と一瞬過ったが、グリフィスの表情を見ていると違うような気がした。


 それさえも嬉しそうな顔をするんだから。でも、今日はそういう気分じゃない!


「折角、デートに来ているんだから、一緒に歩きたいし、色々と見て回りたいの」


 どうしてそれが分からないかな。


「……確かにデートといえばデートですが、慈善バザーを初デートの場所にしたくないですね」

「でも、初の旅行だって遺跡だったんだから」

「そちらについても、改めて別の機会を初にしてほしいのですが」

「構わないけど、意外ね。グリフィスがこういうのに拘るタイプだとは思わなかった」

「失望しましたか?」

「ううん。私は逆に拘らないから、気にならないわ」


 むしろ、何がお初でも構わないと思っている。行った先よりも、誰と行ったか、が重要だと思っているからだ。


「では、タロットカードについてはどうですか? できれば私は、このような場所で探すのは危険だと思っています」

「……いわくつきのがあるから、とか?」

「それもありますが、安全面から、私が厳選したものを使用してもらいたいのです」


 魔塔の主の保証付きだったら、確かに安全かもしれないけど……意外と独占欲が強いのかな。


「いいわよ。それにグリフィスがどんなタロットカードを用意してくれるのか、考えるだけで面白いから」

「さすがに変なものは用意しませんよ」

「そうしてもらえると有り難いわ。たとえば、猫のルノルマンカードに合わせた可愛いのがいい」

「分かりました。そういう方向性で探してみます」


 ふと、前から来る男性にぶつかりかけた。私もグリフィスの方に寄ったが、肩を掴まれる方が速かったのかもしれない。強い力で引き寄せられた。


「人が増えてきたように感じます」

「そ、そうね。午前中でも、人が動き出す時間帯だから。お昼近くになれば、空くんじゃないかしら」

「ではその間、別の場所に行きませんか?」

「別の、場所?」

「はい。実はアゼリアと初めて会った場所は、この公園の敷地内なんですよ」

「えっ」


 そういえば、公園のような場所だった。アスファルトの上を歩いていたのに、急に柔らかい草の上にいたから覚えている。だけど公園なんて、大小問わず、この街にはいっぱいある。


「まさか、こんな近くにあったなんて……」

「別に不思議なことではありません。ここからアゼリアを抱えて、自宅に帰ったのですから」

「……そこは魔術で自宅に戻ったとかじゃないの?」

「すでに召喚魔術で体に負担がかかっていたアゼリアを、再び負担をかせると思いますか?」

「いや、だってまだあの時は……夫婦でもなかったじゃない」


 今更だけど、どうしてグリフィスは初めから私に優しかったのだろう。どうしてあの時、親切に助けてくれたんだろう。


「関係ありません。私の不注意が起こした出来事だといえましたので」

「どういうこと?」

「ここは周りに人がいますから、場所を変えましょう」

「……そうね」


 私たちが初めて会った場所に……。



 ***



 私がこの世界に来たのは、一年と二カ月。それなのに、初めてこの世界に降り立った場所を見ても、懐かしさを感じない。どちらかというと、こんな場所だったのか、と疑いたくなるほどだった。


「もっと広い場所だと思っていたわ」

「記憶が誤作動を起こすのも無理はないでしょう。何もかも知らない場所に来れば、意外と広く見えるものです」


 まるで、自分も体験したことがあるような口振りだった。グリフィスはいつも私に寄り添ってくれるけど、この発言ばかりは、そんな感じがした。


「もしかして、この間行った、遺跡のこと?」

「あぁ、さすがアゼリアですね。察しが良くて、一瞬、何を言われているのか戸惑ってしまいました」


 グリフィスはそういうと、芝生の上を歩き出した。


「実はウルリーケを封じてから、ジェマナキア遺跡に行ったのは、あの日が初めてだったんです。それまでは、やはり罪悪感からか、行く勇気が出ず。けれどアゼリアが行きたいのなら、と。すみません。あなたを口実にしてしまって」

「いいのよ。いつもお世話になっているから、私が少しでもグリフィスの役に立てていたと知って、そっちの方が嬉しかったわ」

「アゼリアが役に立てていなかったことなどありません。むしろ、私の方がずっと甘えていました」


 えっ、と驚いたせいか、急に立ち止まったグリフィスに反応できず、私はそのまま前に出てしまった。が、これ幸いと体を捻り、グリフィスの真ん前に立った。


「ここでアゼリアを見つけたのは、偶然ではありません。図書館からウルリーケを封じたタロットカードが消えたことを魔塔で聞き、私は居ても立っても居られず、探索し始めました。誰よりも、ウルリーケの魔力を知っているのは、私ですから」


 そうか。図書館と魔塔はすぐに連絡が取れる関係でもあり、グリフィスはウルリーケの弟。館長がすぐに連絡を入れることは、むしろ当然のことだった。


「その後、数日経っても反応のなかったウルリーケの魔力を、突然感じたのです。行ってみると、アゼリアが呆然とした顔で座り込んでいました」

「っ!」

「責めているのではありません。始め、ウルリーケが姿を変えて現れたのだと思いました。けれどすぐにあなたからは一切魔力を感じないことに気づき、ウルリーケに巻き込まれたのだと察しました」

「……だから、助けてくれたの?」


 グリフィスが移動することを進めてくれなければ、私は黒いフードの男たちに見つかっていた。ううん。先にグリフィスが私を見つけてくれなかったら、どうなっていただろう。考えただけでゾッとした。


「私が図書館に寄贈せず、自ら保管していれば、このようなことにはなりませんでしたから」

「それで、不注意……」

「はい。最初は保護するだけのつもりだったんですが……その、あまりにも綺麗な黒髪に見惚れてしまって……偽装結婚を持ちかけました」

「えっ?」


 そういえば、時々だけど、私の黒髪を褒めてくることがあった。グリフィスの方が綺麗だから、その度に何を言っているんだろうってやり過ごしていたけど……まさか、本気だったなんて、誰が思うだろう。


「名前もおそらく、独占欲だったのだと、今なら分かります。あの時、なぜ咄嗟に偽装結婚を持ち掛け、名前まで変えるように言ったのか、自分でも不思議に思っていましたから」

「ひとめ、惚れ、だったってこと?」

「結果としては」


 まさかのことに、私は開いた口が塞がらなかった。

 誰もが振り返るほどの美麗。容姿端麗、美丈夫、眉目秀麗、イケメン等々。あらゆる言葉で表しても足りないくらいの容姿をしている人物が、パッとしない私の髪を見て、一目惚れ? 冗談でしょう、と思った。いや、思わずにはいられなかった。


「これで、疑問は解消されましたか?」

「そ、そうね。凄く驚いたけど」

「すみません。あと、ここにアゼリアを連れて来ることが遅れたことも、謝らないとなりませんね」

「仕方がないわよ。私も、そんな余裕はなかったわけだし」

「いいえ。これは私の我が儘なんです。アゼリアが帰りたくなるのではないか、と思うと話題にあげることすらできませんでしたから」


 思わず、耳が熱くなるのを感じた。想いが通じた後に言うなんて、ズルいとも。だから、怒るに怒れなかった。


「こんな私が嫌になったのでしたら、今からでも魔塔で帰還の準備をしますが……」

「どうして? ここまで想われているのに帰るなんてできないわよ」

「アゼリア……」

「そう、私はアゼリア。グリフィスが付けてくれたんじゃない」


 私はグリフィスに向かって、両手を伸ばした。


「忘れないで。私はアゼリア。アゼリア・ハウエル。あなたの妻よ」


 もう偽装夫婦でもない。本当の妻だ。


「そしてあなたは、私の夫だということを」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ