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召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜  作者: 有木珠乃@2/6コミカライズ配信開始
第2章 穏やかな日常に潜む影

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第24話 グリフィスがいないこと

「アゼリア」


 本日の仕事を終え、帰り支度をしている最中、ふいに後ろから声をかけられた。それも馴染みのある声に、私は驚いた。

 だって彼女は、用事があるといい、今日の仕事は午前中だけだったのだ。そんな彼女がどうして定時で帰る私に声を? と思うのは無理のないことだった。私は恐る恐る振り返る。


「ヘルガ?」


 やはりヘルガだ。長くて美しい青い髪を持っているのは、この図書館ではヘルガのみ。その鋭い眼光を覗かせる金色の瞳も。


「そっ。で、今、帰りだよね」

「うん。そうだけど、なんでヘルガがここにいるの? 今日は半休だって言っていなかった?」

「半休で用事を済ませたんだけど、その帰り道にグリフィスの店の前を通ったんだよね。それで――……」

「グリフィスに何かあったの!?」


 どこか回りくどい言い方に、私は何かがあったんだと悟った。ヘルガの様子も変だし、わざわざ職場に戻って来る辺りなど、余計に怪しかった。

 そんな私の態度に、ヘルガが慌てた様子を見せる。


「特に何かあったわけじゃないんだけど、しばらくアゼリアを預かってくれって頼まれたのよ」

「えっ? なんで?」

「ほらっ、アゼリアは家の鍵を持っていないでしょう。今帰っても、入れないし」


 そうなのだ。あれから鍵を持たせてほしい、と頼んだのだが、結局「持たせてもいいですが、使いどころはないと思いますよ」だから持たせるだけ無駄だと言われてしまった。


 今がその、使いどころだと思うけど! だけど本題はそこではなかった。


「つまり、グリフィスはどこかに出かけたってこと?」

「うん。そう、そうなのよ! さすが、アゼリア! 察しが良くて助かるわ~」


 ヘルガは胸の前で手を叩き、まるで今、妙案が思いついたような嬉々とした顔をした。


「おだてても無駄よ。本当のことを教えて。グリフィスに何があったの?」

「アゼリアが言った通りのことよ。本の仕入れに急遽、行くことになったんですって。それでたまたま前を私が通りかかったから、アゼリアのことを頼まれたの」

「急遽? たまたま?」


 私は訝しげにヘルガを見つめた。けれどヘルガはニコリと笑うだけで、明らかに真相を話すつもりはないらしい。


「図書館だって、時々問屋さんから本を仕入れることがあるでしょう? 向こうが来てくれたり、私たちが行ったりしているじゃない。本屋を経営しているグリフィスだって、同じなのよ」

「……それはまぁ、そうだけど」


 そんな話、私だってグリフィスとしたことがないのに。なんでヘルガが?


「アゼリア。そんな顔をしないで。グリフィスだって残念がっていたんだから。直接言えないこととか、私に任せることとか。本当にアゼリアのことしか考えていないんだなって思うくらい、注意事項を言われたのよ」

「……ごめんなさい。つい、なんでって思っちゃって」

「無理もないよ。ずっと欠かさず迎えに来ていたんだから、それなのにいきなり人伝に連絡をもらったら、私だって悲しくなるもの」

「ヘルガも?」

「うん。だから今日はね。アゼリアのために、彼に頼んでちょっと豪華なディナーを用意したの。グリフィスと一緒じゃなくて寂しいかもしれないけど、美味しいものを食べに行こうよ」


 思わず私は両手で顔を覆った。一瞬でもヘルガに嫉妬を向けた自分が嫌になったのだ。


 ヘルガが好きなのはグリフィスじゃないのに。


「あ、アゼリア!? 大丈夫? 豪華なディナーよりも、素朴な方が良かった? 今なら変更できるから言ってね」

「ううん、大丈夫。キャンセルしないで。折角、ヘルガが私のためにしてくれたんだもの。それが嬉しかったの」

「良かった。そうだ! アゼリアには相談所のこととか、色々と迷惑をかけたから、今日はその愚痴を聞くよ。たぶん、言い辛かったんじゃない?」

「それは……」


 嘘とは言えない。職場で言えない愚痴を、グリフィスに聞いてもらっていたのだから。それでも、ヘルガに聞いてもらいたいことはいっぱいあった。


「グリフィスの愚痴も大歓迎よ。ちょっと過保護が過ぎるというか……」

「まぁ……うん、否定できないかも」

「あとは、最近調べ物を手伝っているっていう利用者のこととか……大丈夫?」

「え? 何が? どっちかっていうと、構い過ぎじゃないのかって怒られると思っていた」


 普通、一利用者に、何日も付きっ切りで相手をする方が異常なのだ。とはいえ、臨時の仕事では皆の足を引っ張ってしまうから、他にやることもない。禁書区画の周辺の見回りだって、元々ラモーナ一人で事足りていたのだ。


 図書館自体、閑古鳥が鳴いている状態だったから、人手はすでに足りている。少しずつ利用者が増えたといっても、猫の手を借りたいほどではなかった。


「怒りはしないけど……そうね。相手に色々と要求されているんじゃないか、とかさ」

「あぁ、図々しい利用者もいるからね。でも、マックスはそういうタイプじゃないのよ」

「えっ、もう名前で呼び合っているの!?」

「だって、その方が調べ物がしやすいでしょう?」

「そうだけど……アゼリア、結婚しているのよ。少しは危機感を持ったら?」


 ヘルガに言われて、ハッとなった。私とグリフィスは偽装結婚だから、あまりそういう意識を持っていなかったけれど、本当はよくない行動だったのかもしれない。


 どうしよう。とりあえずここは話を合わせて終わらせることにしよう。


「うん。結婚したばかりだったから、そこのところの危機感が足りなかったのかも」

「なんだか、グリフィスが心配になるのも分かる気がするわ。アゼリア、隙だらけなんだもの」

「そうかな」


 確かに、グリフィスの世話になっていたから、色々と油断していたのかもしれない。マックスを相手にする時は、もっと気を引き締めていかないと。

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