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召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜  作者: 有木珠乃
第1章 偽装夫婦の日常

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第11話 ヘルガの胸の内

 この世界で初めて占いをしてから二カ月。ヘルガは宣言通り、素敵な恋人を見つけた。とはいえ、占いの後すぐに出会ったわけではない。


 パーティーがあると聞けば参加し、集会にまで顔を出す始末。ヘルガは文字通り、目と耳とを屈して、地道に見つけ出したのだ。すでに途中から出会いとは? という次元だったが、そこはもう関係ない。ヘルガは自ら運命の相手を探し出したのだから、とやかくいうのは野暮である。


「ありがとう、アゼリア。あなたのお陰よ」

「ううん。これは……占い関係なく、ヘルガの努力の賜物だよ」


 間違いなく、と自信を持って断言できる。


 けれど私の両手を握りしめるヘルガの眼差しは、けして悪ノリしているようには見えなかった。むしろ、心の底から感謝しているのが、痛いほど伝わってきたほどである。


「でも! イベントやパーティーで出会えるって言ったのはアゼリアなのよ。図書館と自宅を行き来していたら、絶対に巡り合えなかったと思うの」

「それは……まぁそうだね」

「だからね、もっと自信を持った方がいいよ」

「な、何を?」


 嫌な予感がして、私はわざとはぐらかした。


「勿論、占いよ!」

「……当たらなかったのに?」

「私は当たった、と思っているわ。アゼリアはあの時、私にこう言ったじゃない。『それを受け取るのも受け取らないのも、私の自由』と。つまり、私が当たったと思えば当たったってことなのよ!」

「そんな力説されても……」


 喜んでもらえたのは嬉しいけど、あまり声を大にして言わないでほしい。


 私とヘルガが今いるのは、図書館のバックヤード。つまり休憩室にあたる場所だった。だから私たちの他にも人がいるわけで……。


「えっ、アゼリア、占いができるの?」


 案の定、興味を示した同僚が声をかけてきた。私がどう返事をしようかと悩んでいると、その隙をついたように、ヘルガが身を乗り出す。


「できるなんてものじゃないのよ! アゼリアのお陰で恋人ができたんだから」

「えっ!? もしかして、最近よく見かける交易関係の人?」

「そうよ。ふらっと立ち寄った公園で、慈善バザーをやっていてね。ほらっ、時々危険な魔術書とか売っていることがあるでしょう? なるべく回収しようって話も出ていたから立ち寄ってみたの」


 ふらっとも何も、私の占いで自然のあるところ、もしくは公園だと聞いていたヘルガが、イベントの開催を聞きつけて向かっただけのことである。けれど二カ月近く経ってもその兆しがなく、私としてもホッと胸を撫で下ろした案件だったため、口を噤んだ。


「そしたらたまたま、マティライトの花器を探しにやって来ていた彼に出会ってね」

「あぁ、ヘルガの趣味は焼き物の収集だったっけ。確かヘルガも、マティライトの花器を求めてこの街に来たんじゃなかった?」

「えっ、そうなの?」

「そうよって、あれ? アゼリアには言っていなかったっけ、私の趣味。それなのに、彼と出会う場所を占えるなんて凄いわ!」

「たまたまだよ」


 占い師ではないけれど、喜んでもらえるのは嬉しい。だけどそれは、ヘルガが諦めずに探し続けたからだ。それを言おうとした瞬間、ヘルガと同じ眼差しに気づき、思わずギョッとなった。


「アゼリア。それが本当にたまたまなのか。試してみたくない?」


 さっきまでヘルガ越しに見えていた同僚の姿が、近くに感じる。よくよく見ると、テーブルに身を乗り出していた。


「というより、占いが趣味って言っていたから、もう一度やってみない? と言った方が正確だと思うけど」

「ヘ、ヘルガ! 煽らないでよ」

「煽っていないよ。別にお金を取るわけじゃないんだから、当たらなくてもアゼリアに責任を押し付けたり、責めたりしないって。そうでしょう?」


 二カ月もの間、私の占いについてヘルガが言及してくることはなかった。事前に、当たる保障はない、と言っていた手前もあるからだろう。それを信じて行動してくれたのか。もしくはそれほどまでに恋人を求めていたのか、までは分からない。


 途中から執念のような気迫が見えていたから……。


 けれどその間、ヘルガは一度も私のことを責めたことはなかった。占い自体もまた、否定しないでいてくれた。


「だから、私以外にも占ってあげてよ」

「で、でも……」

「お願い!」

「……う~ん、当たるって保障はできないよ。現にヘルガのだって、当たっていたとは思えないもの。それでも怒らないのなら、いいよ」

「っ! 本当?」


 嬉しそうにいう同僚に、私は焦った。期待されすぎると、落胆した時もまた、同じくらいのダメージを受けるからだ。その時、私に八つ当たりされても困ってしまう。


「だ、だけど私は占い師じゃないから――……」

「分かっているって。完全に当てになんてしないから大丈夫。ちょっと相談に乗ってもらう程度の気持ちで受けたいの」

「……相談に乗る程度かぁ」


 言い方は微妙だとは感じたけれど、私を気遣ってのことだというのは伝わってくる。少しでも負担を減らそうという気持ちが。


 そこまで配慮してもらっているのに断るなんて……できるわけがない。


「う〜ん。割り切れないのなら、こういうのはどう? アゼリアはあの時、『ピンっと来たものだけを受け取って』って言っていたんだから、占いの結果をどうするのかは自己責任ってことで」

「うんうん。それいいね。自己責任自己責任。絶対責めるようなことはしないし、させないから、ね。お願い!」


 同僚の祈るような仕草に、内心クスリと笑ってしまった。もう私の中で腹は決まっている。そんな中、ヘルガたちは色々と考えてくれたのだ。


「じゃぁ、後日でいい? さすがに占い道具を仕事に持ってきていないから」

「わぁ〜、ありがとう、アゼリア。それじゃこっちも、準備を始めないとね」


 ヘルガと頷き合う同僚。


 もう、準備って大袈裟なんだから、と私はそんな二人の様子を微笑ましく眺めていた。けれどその準備や、彼女たちが私に何をさせようとしていたのか。この時、もっと推測するべきだったと、後々、後悔することになる。


 まさか、そっちの準備だったなんて……。

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