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第8話 雨龍ダンジョン

 雨龍うりゅうダンジョンは、東京都雨龍区に存在する大型のダンジョンだ。

 地下一階から地下九十九階まで存在し、上層部であれば攻略は容易だが、地下三十階辺りから難易度が跳ね上がる。地下六十階以降は「死の領域」と呼ばれており、ダンジョン探索上級者でも立ち入ることは推奨されない――



 そんな雨龍ダンジョンの地下七十四階を、わたしは探索していた。


 飛び交う五体の万魔の蝙蝠(アデナダド)を、一体ずつ雷魔法で殺していく。複数体で行動し、超音波で混乱させた獲物を狩る狡猾な魔物だが、精神強化魔法で対策しておけば敵ではない。仲間を失って闇雲に叫び声を上げる最後の万魔の蝙蝠(アデナダド)も、雷魔法が命中すると地面にべしゃりと打ち付けられ血を吐いた。その身体が白い光の粒に包まれていき、わたしはふうと息をつく。


(……いつになったら、()()()が見つかるんだろう)


 わたしが雨龍ダンジョンに潜り続ける意味――いや、わたしが生きる意味。それは、「あいつ」を探すことだった。


(普段はどこに生息してるんだ。もっと、奥なのか……)


 わたしはダンジョン・リングに手を添えながら「〈開け(オプネ)〉」と唱えて、ウィンドウを表示する。

 魔法を起動するのに必要なMP(マジック・ポイント)は、残り三分の一ほどだった。

 MPを回復する道具は持っているが、事情があって余り手は付けたくない。


(わたしの実力では、地下八十階以降になれば死亡リスクがぐんと高まる……まだ、地下七十九階までしか探索できない)


 己の不甲斐なさに、きゅっと唇を噛み締めたときだった。


 ――血のにおいに、気が付く。


 人間の血と魔物の血は、色こそ同じだが、全然においが違う。人間の方は鉄錆のようで、魔物の方はどこか甘ったるい。

 そして……これは、人間の血のにおいだ。


 わたしはだっと駆け出した。

 まさか、ダンジョン配信者か? それともダンジョン探索者?

 いずれにせよ、助けなければ。

 雨龍ダンジョンでの人の死なんて、許せない。


 角を曲がって、見えたのは――闇に潜む捕食者(ダフダネーター)

 ちょうど地下七十四階から現れるようになる、初見殺しという言葉が相応しい魔物だ。細長い蛭を馬鹿みたいにデカくしたような見た目をしている。地面と擬態し、近くを通ろうとした人間を強いガスで眠らせ、足から食う。


「〈荒れ狂う風刃(ラジブリンジ)〉!」


 わたしはすぐに、闇に潜む捕食者(ダフダネーター)を弱点である属性の風魔法で裂いた。


 それから膝から下がなくなっている、狐耳のカチューシャを付けた桜色の髪の少女へ、治癒魔法を使う。問題なく再生されていく肉体に、わたしは安堵の息をついた。


(……あれ? 何だか、見覚えあるような……)


 わたしは記憶を辿る。

 そうして、思い出した。


 ダンジョン配信者――「弓晴ゆみばれユミカ」。


 わたしがまだダンジョン配信をよく見ていた頃、注目の若手として取り上げられていた人物だ。


 ふと顔を上げれば、弓晴ユミカのものだと思うダンホと目が合った。

 チャット欄がすごい勢いで動いている。


〈ゆみゆみ助かってよかった〜涙涙涙〉

〈ゆみゆみ死んだらと思うと涙止まらんかった〉

〈あの魔物マジ許せない〉

〈助けてくれてありがとうございます!〉

〈誰ー?〉

〈今話題のめぐめぐでは!?〉

〈えええええええええ〉

〈ヤバすぎ〉

〈まじ!?〉

〈今日の配信でも巡葉恵の話出たよね!?〉

〈出てた出てた〉

〈そうなん? 途中から来たから詳しく〉

〈なんか、ゆみゆみ、めっちゃファンだったからすごい嬉しいって言ってた〉

〈名前とかも巡葉恵の影響受けてるって話してた〉

〈狐耳もだったよね〉


(……そうだ)

(弓晴ユミカは、巡葉恵のファンだった)


「…………ん、」


 声がして、見れば弓晴ユミカが意識を取り戻したようだった。


「あれ……めぐ、めぐ……?」


 わたしは弓晴ユミカと目を合わせながら、そっと首を横に振る。


「すみません……巡葉恵じゃ、ないんです」


 わたしはそれだけ伝えて、弓晴ユミカを抱きかかえると、ユニーク・スキルを使った。


 ――視界に、東京の夜景が広がる。


 きらきらと輝くネオンが、目に眩しかった。

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