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第36話 side:皇菜奈子

 わたくしは、「雨宿リリス」という解説系ダンジョン配信者がDLHにアップロードしている、雨龍ダンジョン地下四十七階のマップデータを一つのモニターに映した。


(……恐らく、非常に正確な地図ですわね)


 雨龍ダンジョンの地下四十七階なら何度も探索経験がある。その際に疑問視していた謎の空洞が「隠し部屋」だとしたら筋は通っているし、ダンジョン探索の実力者たちもDLHで雨宿リリスのマップデータを支持している。佐山和歌の配信において示されている空間の規模感の大きさや、最初に推測していた地下四十階から六十階にも合致することから考えて、彼女が隠し部屋にいるのはほぼ確実と言っていいだろう。

 それにしても、雨龍ダンジョンの地下四十七階という、高難易度かつかなりの広さの場所の詳細なマップデータをつくるなんて、雨宿リリスという配信者はある意味恐ろしい。埋もれているのが不思議なくらいだ。


(それでも、百パーセント確実と言えないのがもどかしいですが……こればかりは仕方ありませんわ。多少の賭けに出なくては、救えるものも救えなくなる……)


 そう考えながら、わたくしは口を開いた。


「……音子。このマップデータと佐山和歌さんの配信があれば、ユニーク・スキルを使うには問題なさそうかしら」


 わたくしの問いかけに、音子はこくりと頷く。


「うん。ねこ、飛ばせるよ」

「ありがとうございますわ。そうしたら、使用人たちに連絡して、わたくしの装備の準備をさせ――」



「ちょ、ちょっと待ってくれ!」



 わたくしの言葉は、遠川詩に遮られる。

 何かと思い、彼女の方を見た。


「何かしら? 今は迅速な対応が必要なときですが」


 目を細めたわたくしを、遠川詩は真剣な眼差しで見据える。


「……羽生さんは、何か一つ、佐山さんの元に飛ばせるんだよね」

「うん、そうだけど」

「だとしたら――ボクを、飛ばしてほしい」


 遠川詩の言葉に、わたくしは目を見開いた。


「ええと……今は、冗談を聞いている暇はないのですけれど」

「冗談じゃない! ボクは、本気で言っている」

「……あのねえ」


 わたしはわざとらしく溜め息をついてから、再び口を開く。


「わたくしが貴女がたの配信を見たことがないと思っていますの? 全て見ていますし、ですから貴女の戦闘力がカスなことも知っていますわ。あの場所にカスを飛ばしたらどうなると思いますの? 一瞬で死にますわ。カスな戦闘力と同じように身体もカスに……」

「カスっていっぱい言わないでくれ! ……勿論、ボクよりも皇さんや羽生さんの方が強いことなんて、わかっている。それでも、ボクが佐山さんを助けに行きたい」

「何故ですの」

「……佐山さんが、好きだから」


 遠川詩の表情が、くしゃりと歪む。


「大好きなんだ。だから、もしも……画面の向こうで佐山さんが死んでしまったら、多分ボクは一生後悔する。佐山さんとはまだ、ちゃんと仲直りもできていないんだ。話せていないこと、話したいこと、いっぱいある。だから、お願いだ……ボクを行かせてください」


 遠川詩は涙目でそう言って、わたくしへと深く頭を下げる。


「……顔を上げなさい。一つ言わせてもらいますが……貴女のその考えは、エゴでしてよ。わたくしが助けに行く方が、佐山和歌さんの生存率は確実に上がる。貴女の身勝手な思いで、貴女の大切な人間を危険に晒していることを、その愚かさを理解しなさい」


 わたくしの言葉に、遠川詩は悲しそうに目を伏せた。


「わかったかしら? では、ダンジョン・リングのステータスをわたくしに見せなさい。音子、使用人たちに、わたくしと遠川詩さんに合いそうな装備を用意するよう伝えてきて」

「うん、わかった」


 部屋を去っていく音子に、遠川詩が「……え、」と声を漏らす。


「い、いいのか……!?」

「全くよくはないですわ。ですから、貴女が行く場合の『勝機』が見えない限り、わたくしが助けに行きますわ。ですので貴女は今から、懸命に『勝機』を考え出してみなさい」


 わたくしは、とんとん、と人さし指で自分の頭を示してみせる。

 遠川詩は唇を引き結んで、こくりと頷いた。


(……わたくしも、愚かですわね。わたくしが向かった方が、確実によい結果は見えているのに……)

(でも、あんなこと言われたら、無下にするなんてできないじゃない)

(まあ……わたくしには、最適なユニーク・スキルがある)

(見えるといいですわね……遠川詩の、『勝機』が)


 わたくしはそっと、右目をさらりと撫でる。

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