表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/40

第33話 side:遠川詩

 人より身長が伸びるのが早く、声も低めだったからか、ボクは昔から女の子に人気があった。

 だから、意図的に「かっこよく」振る舞うようになった。

「かっこよく」振る舞うことで、ボクの周りには沢山の友達ができた。

 人と交流するのが好きなボクにはそれが嬉しかった。

 でも……「かっこいい」のが素かと言われると、全くそんなことはない。

 本当のボクは結構ドジで、馬鹿で、残念な奴だと思う。

 でも、そういう性質をできるだけ覆い隠しながら、望まれている自分を演じ続けてきた。


 だから――佐山さんの生き方に、驚きを隠せなかった。


 彼女はいつもひとりで、窓際の席でスマホを弄っていた。

 誰かに話しかけられても、無愛想に応答するだけ。

 そんな佐山さんの態度を、嫌だなって思う人もいるのかもしれないけれど。


 ――ボクには、そんな佐山さんが輝いて見えた。


 誰の視線を気にすることもなく、本来の姿で生きている佐山さんの方が、ボクなんかよりずっと素敵だと思った。

 そうしてつい、視線で追い掛けてしまうようになり。

「素敵」は段々、別の感情に変わっていって。


 ……気付けばボクは佐山さんに、初めての感情を抱くようになった。


 *


「…………え、」


 ――視界に広がるのは、雨龍ダンジョンの入り口だった。


「え、嘘、何で……」


 独り言を漏らしながら、ボクは今まで起きた出来事を脳内で反芻する。


 佐山さんに仲直り配信を提案してもらえて。

 ボクがスライムを倒して。

 佐山さんが防御魔法を使って、……頬にキスされて。

 すごく強そうな魔物がいて。

 それで、気が付いたらこの場所にいた。


「……そうだ、ボクの特性、」


 さあっと血の気が引く。

 ダンジョン・リングのステータス欄に書いてあった。

 ボクは、強い魔物を誘き寄せてしまうらしい。


 でも……今までは、すぐに佐山さんが強い魔物を倒してくれていた。

 だから、勝手に安心してしまっていた。

 佐山さんが隣にいれば、大丈夫だって。


 けれど、今回の魔物は、明らかにやばそうだった。


「そういえば、佐山さんのユニーク・スキルはワープで……」


 思い出して、ようやく理解する。


 ――佐山さんは、ボクをダンジョンから逃がしてくれたのだ。


「じゃ、じゃあ、佐山さんは今どこに……!?」


 そう言いながら、ボクはふと気が付いた。

 ダンホが、側にいない。

 つまり、もしかしたら、佐山さんの側に今もダンホが……


 ボクは慌ててスマホを取り出すと、ダンジョンライブのアプリを起動する。

 それから、『らぶらぶ♡ サヤトワカップル♡』の配信を確認した。

 そうして、息を呑んだ。


 佐山さんが、あの魔物とひとりで戦っている――


「そ、そんな……! 助けに行かなきゃ!」


 雨龍ダンジョンに戻ろうとして、ボクは自分の戦闘能力を思い出した。

 ちっぽけ、だ。

 しかも佐山さんのいる場所は、先程までボクたちがいた地下一階ではなくて、どこかの広間のような場所だ。それが何階に存在するのかさえ、ボクにはわからない。ワープのユニーク・スキルがあれば、きっと何階にでも行けてしまう。


「ど、どうしよう、どうしよう……」


 おろおろとしていると、スマホから着信音が鳴り出す。

 びっくりして、スマホを落としてしまいそうになった。


 画面に表示されている名前は、「皇菜奈子」。


 コラボ配信の前に交換した、パインのアカウントからだった。

 ボクは慌てて、皇さんからの電話に出る。


「も、もしもしっ、皇さん! 今、すごく大変で……」

『把握しておりますわ。貴女は今どこにいるのかしら』

「えっ、えっと、雨龍ダンジョンの入り口で」

『了解。すぐに向かわせますわ』


 ですからそこで待っていなさい、と皇さんはボクに言う。


 *


 黒くて大きい車に乗って数分、ボクが案内されたのは豪邸だった。

 玄関には羽生さんがいて、出迎えてくれる。


「やっほ。待ってたよ」

「あ、ああ……皇さんはどこにいるんだ!?」

「こっち。ついてきて」


 小走りの羽生さんの背中をボクは追う。


 そうして案内されたのは――多くのモニターが用意された部屋だった。

 一番大きなモニターには佐山さんの配信が表示されていて、それとは別のモニターには、別の配信者さんの配信や掲示板が幾つも映し出されている。


 高い背もたれの椅子に座っていた皇さんが、くるりとボクたちの方を振り返った。


「お待ちしておりましたわ。さて、遠川詩さん……簡単に状況をお聞かせくださる?」

「状況、は……佐山さんと、仲直り配信をしていて……それで、強い魔物が急に現れて、佐山さんはボクを逃がしてくれて……」

「佐山和歌さんが今いるのが、雨龍ダンジョンのどこかはわかるかしら?」

「いや……それは、わからない」

「そうなのね……それが一番重要な情報ですわ。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何かを、飛ばす……!?」


 驚いているボクに、羽生さんはこくりと頷いた。


「うん。ねこのユニーク・スキル、前も言ったけどワープ系。だから……場所が詳しくわかれば、一つだけなら飛ばせる」

「地形を見る感じ、雨龍ダンジョン内部であることは間違いなさそうですわ。恐らく地下四十階から六十階のどこか……」

「と、というか、皇さんは佐山さんのことが嫌いなんじゃなかったのか!?」


 ボクの疑問に、皇さんは数度瞬きを繰り返す。


「まあ、好きか嫌いかで言ったら嫌いの部類ですが……」

「やっぱり!」

「だからと言って、関わりのあった人間を簡単に見殺しにするかと言われれば、それは別問題でしてよ。庶民を救うのが、貴族の役目ですから」


 そう告げて、皇さんはそっと微笑んだ。

 それから、腕を組んで口を開く。


「とにかく、佐山和歌さんが独力であの魔物に勝てそうかと言われますと、答えはノー。ですのでわたくしたちは、とにかく情報を集めなければいけませんわ」


 皇さんはそう言って、再びモニターの方へと向き直る。


 ボクも何か情報を探そうと思って、自分のスマホを取り出した――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ