第33話 side:遠川詩
人より身長が伸びるのが早く、声も低めだったからか、ボクは昔から女の子に人気があった。
だから、意図的に「かっこよく」振る舞うようになった。
「かっこよく」振る舞うことで、ボクの周りには沢山の友達ができた。
人と交流するのが好きなボクにはそれが嬉しかった。
でも……「かっこいい」のが素かと言われると、全くそんなことはない。
本当のボクは結構ドジで、馬鹿で、残念な奴だと思う。
でも、そういう性質をできるだけ覆い隠しながら、望まれている自分を演じ続けてきた。
だから――佐山さんの生き方に、驚きを隠せなかった。
彼女はいつもひとりで、窓際の席でスマホを弄っていた。
誰かに話しかけられても、無愛想に応答するだけ。
そんな佐山さんの態度を、嫌だなって思う人もいるのかもしれないけれど。
――ボクには、そんな佐山さんが輝いて見えた。
誰の視線を気にすることもなく、本来の姿で生きている佐山さんの方が、ボクなんかよりずっと素敵だと思った。
そうしてつい、視線で追い掛けてしまうようになり。
「素敵」は段々、別の感情に変わっていって。
……気付けばボクは佐山さんに、初めての感情を抱くようになった。
*
「…………え、」
――視界に広がるのは、雨龍ダンジョンの入り口だった。
「え、嘘、何で……」
独り言を漏らしながら、ボクは今まで起きた出来事を脳内で反芻する。
佐山さんに仲直り配信を提案してもらえて。
ボクがスライムを倒して。
佐山さんが防御魔法を使って、……頬にキスされて。
すごく強そうな魔物がいて。
それで、気が付いたらこの場所にいた。
「……そうだ、ボクの特性、」
さあっと血の気が引く。
ダンジョン・リングのステータス欄に書いてあった。
ボクは、強い魔物を誘き寄せてしまうらしい。
でも……今までは、すぐに佐山さんが強い魔物を倒してくれていた。
だから、勝手に安心してしまっていた。
佐山さんが隣にいれば、大丈夫だって。
けれど、今回の魔物は、明らかにやばそうだった。
「そういえば、佐山さんのユニーク・スキルはワープで……」
思い出して、ようやく理解する。
――佐山さんは、ボクをダンジョンから逃がしてくれたのだ。
「じゃ、じゃあ、佐山さんは今どこに……!?」
そう言いながら、ボクはふと気が付いた。
ダンホが、側にいない。
つまり、もしかしたら、佐山さんの側に今もダンホが……
ボクは慌ててスマホを取り出すと、ダンジョンライブのアプリを起動する。
それから、『らぶらぶ♡ サヤトワカップル♡』の配信を確認した。
そうして、息を呑んだ。
佐山さんが、あの魔物とひとりで戦っている――
「そ、そんな……! 助けに行かなきゃ!」
雨龍ダンジョンに戻ろうとして、ボクは自分の戦闘能力を思い出した。
ちっぽけ、だ。
しかも佐山さんのいる場所は、先程までボクたちがいた地下一階ではなくて、どこかの広間のような場所だ。それが何階に存在するのかさえ、ボクにはわからない。ワープのユニーク・スキルがあれば、きっと何階にでも行けてしまう。
「ど、どうしよう、どうしよう……」
おろおろとしていると、スマホから着信音が鳴り出す。
びっくりして、スマホを落としてしまいそうになった。
画面に表示されている名前は、「皇菜奈子」。
コラボ配信の前に交換した、パインのアカウントからだった。
ボクは慌てて、皇さんからの電話に出る。
「も、もしもしっ、皇さん! 今、すごく大変で……」
『把握しておりますわ。貴女は今どこにいるのかしら』
「えっ、えっと、雨龍ダンジョンの入り口で」
『了解。すぐに向かわせますわ』
ですからそこで待っていなさい、と皇さんはボクに言う。
*
黒くて大きい車に乗って数分、ボクが案内されたのは豪邸だった。
玄関には羽生さんがいて、出迎えてくれる。
「やっほ。待ってたよ」
「あ、ああ……皇さんはどこにいるんだ!?」
「こっち。ついてきて」
小走りの羽生さんの背中をボクは追う。
そうして案内されたのは――多くのモニターが用意された部屋だった。
一番大きなモニターには佐山さんの配信が表示されていて、それとは別のモニターには、別の配信者さんの配信や掲示板が幾つも映し出されている。
高い背もたれの椅子に座っていた皇さんが、くるりとボクたちの方を振り返った。
「お待ちしておりましたわ。さて、遠川詩さん……簡単に状況をお聞かせくださる?」
「状況、は……佐山さんと、仲直り配信をしていて……それで、強い魔物が急に現れて、佐山さんはボクを逃がしてくれて……」
「佐山和歌さんが今いるのが、雨龍ダンジョンのどこかはわかるかしら?」
「いや……それは、わからない」
「そうなのね……それが一番重要な情報ですわ。何故なら、正確な座標情報がなければ、音子が佐山和歌さんの元に何かを飛ばすことができないから」
「何かを、飛ばす……!?」
驚いているボクに、羽生さんはこくりと頷いた。
「うん。ねこのユニーク・スキル、前も言ったけどワープ系。だから……場所が詳しくわかれば、一つだけなら飛ばせる」
「地形を見る感じ、雨龍ダンジョン内部であることは間違いなさそうですわ。恐らく地下四十階から六十階のどこか……」
「と、というか、皇さんは佐山さんのことが嫌いなんじゃなかったのか!?」
ボクの疑問に、皇さんは数度瞬きを繰り返す。
「まあ、好きか嫌いかで言ったら嫌いの部類ですが……」
「やっぱり!」
「だからと言って、関わりのあった人間を簡単に見殺しにするかと言われれば、それは別問題でしてよ。庶民を救うのが、貴族の役目ですから」
そう告げて、皇さんはそっと微笑んだ。
それから、腕を組んで口を開く。
「とにかく、佐山和歌さんが独力であの魔物に勝てそうかと言われますと、答えはノー。ですのでわたくしたちは、とにかく情報を集めなければいけませんわ」
皇さんはそう言って、再びモニターの方へと向き直る。
ボクも何か情報を探そうと思って、自分のスマホを取り出した――




