第32話 復讐
魔力供給剤――γ型。
液体を実際に飲む必要があるα型やβ型とは違い、予め定めておいた使用者の〈供給〉という言葉に反応し、魔法のようにMPを回復してくれる優れものだ。
――この部屋には、千個のγ型魔力供給剤が用意されている。
「〈より堅牢な守護〉」
「〈万能な破壊〉」
「〈供給〉」
「〈より堅牢な守護〉」
「〈万能な破壊〉」
「〈供給〉」
「〈より堅牢な守護〉」
「〈万能な破壊〉」
「〈供給〉」
「〈より堅牢な守護〉」
「〈万能な破壊〉」
「〈供給〉」
わたしはダンジョン・リングに手を添えながら、魔物を追い掛けるようにして絶え間なく魔法を紡ぎ続ける。
〈より堅牢な守護〉の消費MPは500。
〈万能な破壊〉の消費MPは2,000。
わたしのMPは2,500だから、それぞれの魔法を一度使えば空っぽになってしまう。
でも――魔力供給剤を使い続けるとなれば、話は別だ。
〈おいおいおい何が起こってる!?〉
〈サヤさんがあの魔物と戦ってるっぽい〉
〈動きが速すぎてダンホ追い付けてねえ!〉
〈この部屋ヤバくね、γ型の魔力供給剤って一つ一万円とかするのに!〉
〈あれって、めぐめぐを殺した魔物じゃ〉
〈どういうこと!? リベンジ!?〉
〈わかんねえけどヤバい〉
〈だってあいつ、最強だっためぐめぐを一瞬で……〉
魔物は仮面のような顔の口元をつり上げている。
まるで嘲笑われているようで……それでも、魔物の身体には幾つもの傷ができている。
〈万能な破壊〉は、星属性の魔法だ。
星属性が効かない魔物は、見つかっていない。
言葉の通り、「万能な破壊」なのだ。
【――配信をしていらっしゃるのですか?】
頭に流れ込んできた言葉に、心臓がどくんと強く鳴る。
「〈より堅牢な守護〉」
「〈万能な破壊〉」
「〈供給〉……」
口では答えずに、魔法を紡ぎ続ける。
ああ、そうだよ。
わたしは配信をしている。
お前がねえさんの死を全世界に中継したように、
――わたしもお前の死を、中継してやるのだ。
【配信とは、非常に興味深い文化だと思います】
【是非とも私に配信の極意をお教えいただきたい】
【人間はどのような配信に喜びを覚えるのですか?】
【鮮やかな流血に衝動を深く刺激されるのですか?】
【凄惨な死体に非日常的な快感を覚えるのですか?】
【大切な人間を喪失して復讐心を感じるのですか?】
不快なラジオのように流れ込む魔物の言葉を無視しながら、防御魔法と攻撃魔法を展開し続ける。
……そうしているうちに、気が付いた。
わたしは、この魔物に弄ばれている。
肌感覚でわかる、圧倒的な戦闘力の差。
赤い傷ができていることからわかる。恐らく、硬いタイプではない。〈万能な破壊〉を真正面から当てることができれば、こいつはきっとばらばらの死体になる。
でも――回避力が、並大抵のものではない。
できている傷も、わざと当たった結果のように見える。
わたしの攻撃を避けようと本気で思えば、多分全て避けることができるだろう。
そういう魔物だと、今までの戦闘で培われた直感が告げている。
そして――反撃してこないのは、楽しんでいるからだ。
流れ込んでくる言葉からわかる。
こいつは、わたしが復讐のために訪れたと気付いている。
そのために千もの魔力供給剤を用意したことも、理解している。
非常に頭がいい魔物だ。雨龍ダンジョンの奥底に存在しているだけのことはある。
――だからこいつは、わたしが魔力供給剤を全て使い切って、ぼろぼろになってから、わたしのことを殺すつもりなのだろう。
「〈より堅牢な守護〉」
「〈万能な破壊〉」
「〈供給〉……」
(ああ、クソ)
(クソクソクソクソッ)
(どうすればいい)
(他の攻撃魔法を使う?)
(だめだ。避けられるのなら意味はないし、使ったらドボンな属性も恐らく存在する)
(やっぱりわたしは、)
(当たる可能性に賭けて、攻撃を続けるしか……)
【救いはないとわかっているのに、それでも諦めない人間の性質を、愚かだとは感じませんか?】
泣き出しそうになりながら、わたしは魔法を紡ぎ続ける。
百個目の魔力供給剤が、終わりを迎えた。
〈全然倒せない〉
〈もしかしてこれってマズいんじゃ〉
〈やだやだやだやだ〉
〈負けないでサヤさん〉
〈魔物死ね!〉
〈あのさ〉
〈こんなこと書きたくないけど〉
〈サヤさん、めぐめぐみたいに〉
〈……この配信で死んじゃうのかな〉




