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第10話 2回目の配信

 ――【朗報】不死鳥のように蘇った最強ダンジョン配信者・巡葉恵、今度は大人気ダンジョン配信者を死の淵から救う【弓晴ユミカ】


 お昼休み、わたしはコンビニで買った菓子パンを食べながら、げんなりと掲示板を眺めていた。昨日立てられたスレッドだというのに、今日になっても書き込みの勢いは止まることなく、巡葉恵関連の熱い議論が繰り広げられている。


「何でこう、二日連続でバズっちゃうかなあ……クソすぎ……」


 溜め息をつきつつひとりごちたわたしに、「あ、あのおっ!」と声が掛かる。

 顔を上げると、遠川詩の取り巻きこと栗木くりき瑠々(るる)が、何やらリボンでラッピングされた透明な袋を差し出していた。


「え、何ですか?」

「昨日のゆみゆみの配信、見てました……やっぱり、佐山さんは、めぐめぐなんですよね!?」

「いやちが……」

「いいんです、いいんですっ。きっと、明かせない事情があるんですよね!? 大丈夫です、私、わかってますからっ!」

「ほんとにちが……」

「それで、私、めぐめぐにマカロン焼いたんですっ!」


 ああああああ話を聞けえぇッッッッッッッッッ!

 この話の通じなさ、絶妙に遠川詩感あるな……取り巻きやってると人間性も似てくるのか……?

 ……というか。


「……何で、巡葉恵がマカロン好きだって知ってるんですか?」


 わたしの問いに、栗木瑠々は不思議そうに瞬きしてから、明るく微笑う。


「だって、昔の配信で言ってたじゃないですかっ! マカロン、好きだって!」

「……よく覚えてますね」

「当然でしょうっ! だって私、めぐめぐの大ファンですもんっ! めぐめぐの配信は、各回最低でも十回は見てますよ!」

「見すぎ……」


 思わず笑ってしまったわたしへ、「それくらい好きなんです!」と返しながら、栗木瑠々は机の上に色とりどりのマカロンが入っている袋を置く。


「私のマカロンをめぐめぐに食べてもらえるなんて、感慨深すぎますっ……! ふぉーえばーらぶです、めぐめぐっ!」


 栗木瑠々は両手を組み合わせてハートの形をつくると、それから手を振って遠川詩のグループへと戻っていく。

 わたしはマカロンを眺めながら、ぽつりと「……巡葉恵、」と呟いた。


 *


 放課後、わたしは遠川詩と共に雫猫しずねこダンジョンを訪れていた。

 ダンホの配信準備が整う。画面に表示されているボタンを一つ押すだけで、ダンジョン配信が始まることとなる。

 腕時計を確認すれば、時刻は午後四時二十五分。配信開始は三十分からの予定なので、そろそろだ。


「そうだ、佐山さん……企画内容、考えてきたんだ。先に説明しておいた方がいいか?」


 遠川詩の問いに、わたしは首を横に振る。


「いいですよ、説明しなくて。勝負ですし、あんたの考えた企画なら大体何でもやりますから。まあ、余りにもクソな企画だったら殴りますけど」

「余りにもクソな企画だったら、殴られる……!?」


 ぶるっと身震いする遠川詩に、わたしはふふっと笑った。


「例えば野球拳とかだったらぶん殴りますね」

「……ふう。危ない、危ない」

「おい何だ危ないって」

「べ、べべべ別に、候補の一つだったなんてことはないぞ!? 決して、佐山さんの滑らかな素肌を目に焼き付けたいなんて決して思ってな……いたぁいっ!」


 わたしは遠川詩にデコピンを食らわせた。デコピンだけで済んだことに感謝しろ。どう転んだらその企画でわたしがカップルダンジョン配信を続けたくなるんだ? ……というか、


「あんたさてはスケベだろ」

「ス、スケベ……!? だ、だって! 愛しの人のそういう姿を見たいって思うのは、普通じゃないか……?」


 頬を少し赤くしながら、目を逸らして言う遠川詩。ビジュがいいからなんか絵になってるだけで言ってることは男子中学生だからな?

 取り敢えずもう一度デコピンしておく。遠川詩の「いたぁっ!」が、ダンジョンの入り口に響き渡った。


 *


 配信が始まると、同接数が一気に伸びる。百どころか千をすぐに超え、二千、三千――と増えていく。初配信とは明らかに違う数字の動きに、驚いた。

 やはり皆、巡葉恵に興味があるのだろう……複雑な感情が、わたしの胸中を満たしていく。


〈きたあああああああ〉

〈待ってました!〉

〈めぐめぐ〜!〉

〈おい、めぐめぐじゃない、サヤさんだぞ〉

〈サヤさん=めぐめぐでは?〉

〈それまだ謎だから〉

〈トワさん今日もかっこいい!〉

〈百合を摂取しに来ました〉


 流れていくチャット欄を見ながら、わたしは口を開く。


「……わたしはサヤです。何度も言いますが、巡葉恵じゃないですよ」


〈やっぱ本人は否定するのか〉

〈他人の空似?〉

〈めぐめぐ正直になってー〉

〈まあ言いたくないのかもしれんし〉

〈サヤさんはサヤさん。それでいいだろ〉

〈トワさんは何か知らないの?〉


 リスナーに尋ねられた遠川詩は、困ったように微笑う。


「すまない、ボクはそもそもダンジョン配信に詳しくなくて……その、巡葉恵さん? についても、最近存在を知ったばかりなんだ」


〈トワさんがこう言うならマジの人違いなんじゃね?〉

〈流石に恋人には話すだろうしな〉

〈いやでも恋人だからこそ秘密にしてあげてるのかも〉

〈うわああああ謎が深まる〉

〈ミステリアス♡ サヤトワカップル♡〉


 盛り上がるチャット欄。

 すると隣の遠川詩が、「そ、それで、今日の企画だが!」と進行を始める。お、ダンジョン配信者として若干成長したな。まあ、一応勝負が掛かってるしな……


「今日は――サヤが魔物を一体倒すごとに、ボクがサヤの身体の色んなところにキスをしていこうと思う! ……いたぁいっ!」


 はいやっぱこいつスケベだわ。エロ王子に改名しろ。


「ああすみません、つい手が出ちゃいました。テヘ」

「あ、余りにもクソな企画じゃなきゃ殴らないって言ってたのに……ぐすん……」

「いや、確かに余りにもクソではないんですが……ややクソでしたね」

「ややクソ!?」


 遠川詩が目を見張る。というかこいつが生み出せる企画偏りすぎだろ。ご褒美キス企画縛りでもしてる?

 だが、チャット欄を見ると――爆盛り上がっていた。


〈身体の……色んなところに……!?〉

〈ちょっと待ったえっちすぎる〉

〈俺のめぐめぐがああああああ!〉

〈めぐめぐはお前のじゃないしめぐめぐかもわからんし〉

〈ここ雫猫地下一階だよね? サヤさんなら一瞬じゃね〉

〈たくさん百合キスが見れる……ごくり〉

〈神企画をありがとうございますトワさん〉

〈余りにもクソな企画だと殴られる約束あったのおもろすぎる〉

〈バイオレンスサヤさん〉


 わたしははあと溜め息をついてから、遠川詩を見る。


「……ほんとにその、ややクソな企画でいいんですか?」


 勝負なのにそれで大丈夫かという意味も込めて、わたしは遠川詩へと尋ねた。

 そうすると、彼女は胸を張って言う。


「ああ……昨晩徹夜で『上手いキスのやり方』を調べていたからな! 普段は舌使いが下手ってサヤに馬鹿にされるけど……このキステクがあれば、サヤもイチコロさ」


 ぱちん、とウインクまで付いてきた。

 うーんやっぱこいつアホだな……そしてクソみたいなカップル設定盛られたし……


〈向上心のあるトワさん推せる〉

〈トワさんキス下手なのかわいい〉

〈あ〜〜〜サヤトワてえてえ〜〜〜〉

〈サヤさんダウナーだけどキス上手いんだ……〉

〈えっちだ……〉


 わたしはチャット欄に冷ややかな視線を送ってから、遠川詩に「……イチコロにできるもんならやってみなさいよ」と告げた。

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