後宮1
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
婚約者としてクローディア公爵家に入って数ヶ月が経った。
昭国に行かれていたクローディア公爵夫妻が帰国されてからしばらくして、クローディア公爵夫人から私に対しての教育も再開された。
私にとって本格的な社交の始まりである。
私はクローディア公爵夫人の指定する茶会に参加する。
緊張する私に対して、夫人は「この服を着こなして『月の精霊』の様に微笑めば良い」とアドバイスされた。
渡されたのは、先だって送られてきた昭国の衣装だった。
優秀な侍女達に別人のように仕立てられ、私はクローディア公爵夫人と一緒に茶会に参加する。
私は社交界ではあまり表に出て来ない令嬢という位置付けだ。
かつて婚約破棄されたが、元婚家の騒動に巻き込まれずに済んだ幸運な令嬢というイメージらしい。
「王立研究所に表彰されたこともあり、幸運にもクローディア家に入ることになった目立たない令嬢」という印象を、クローディア公爵夫人は書き換えるつもりらしい。
印象操作も戦略の一つだ。
私は自分の見た目が武器になるとは思わなかったが、長い黒髪が役に立っているようだ。
夫人のプロデュースで別人のようになった自分を演じる。終始微笑みを絶やさない様に気をつける。
茶会では根掘り葉掘り聞かれるかと思ったが、昭国帰りのクローディア公爵夫人に話題が集中して助かる。しかも夫人の話に出てくる衣装を実際に着た私が隣にいるから、当然盛り上がる。
茶会初心者の私がボロを出さない様に話題をコントロールされているとはいえ、夫人は第二次昭国ブームでも起こすつもりだろうか?
実際に参加してみて思うのは、茶会でやり取りされる情報は実に興味深い。
学生時代に参加した茶会では、学園の人間関係、社交界の噂、市井の流行りが主な話題だった。
高位貴族の夫人達の集まる茶会は、情報の精度が違う。各家で集めた精度の高い情報が世間話という体でやり取りされる。
しかも市井の流行りの話は経済的な側面に、社交界の噂は政治的な側面の話に発展する。
家を支える女性達の情報戦と高度な駆け引きは、王宮でのやり取りに似ている。
茶会は女性の政治の場だということがよく分かる。
私がこれからこの世界でやっていけるのかは疑問だが、とりあえず努力あるのみ。
今は学びの場として活用させて頂く。
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慣れないことも場数を踏めば慣れるはず、
と思って今日も茶会に参加する。
今日は高位貴族令嬢の集まる茶会に招待されている。未婚の女性の集まりのため、私一人で参加する。クローディア公爵夫人の援護はない。
緊張していたが、私がシルフィーユ様の家に呼ばれていたこともあり、皆様好意的に接して下さる。
シルフィーユ様は産前で社交を控えられているとはいえ、社交界での影響力は健在だった。
またタタ王女の話し相手だった侯爵令嬢もいらしていて、私に話題が集中するとフォローして下さる。
私は恵まれていると思う。
本当にありがたいことだ。
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様々な方面の茶会に顔を出し終えた後は、結婚式の準備を進めるために奔走する。
なんでもクローディア公爵閣下から「式を急がせろ」との指示が出ているらしい。
昭国から帰国した途端に言い出すとは、むこうで何かあったのだろうか?
ユリウス様は「父上が気付くのが遅すぎたくらいだ」と言っていた。
といっても歴史ある公爵家の結婚式のことなど私に分かるはずもなく、日々クローディア公爵夫人と家令の指示の下に動いている。
特に衣装選びには挫けそうになった。
着せ替え人形として頑張るのことはできるのだが、何が自分に似合っているのかは全くわからない。
正直途方に暮れた。
困ってしまい侍女にアドバイスを求めたら、皆推しのドレスのタイプが違って言い争いになった。エリザベス様とサラ様も参戦して、混戦を極める。
さらに困った私を見かねたクローディア公爵夫人が、ドレスのデザインは夫人が決めると言ってくれたので、なんとか場が落ち着く。
ドレスはオーダーメイドをする上、女性のデザインが決まらないと男性の衣装のデザインが決まらないらしい。
こんな困難な事業を成し遂げられたシルフィーユ様を改めて尊敬する。
そして衣装ついての審美眼を身につけるためには、今の私の努力ではまだまだ足りないのだと再認識する。
今後はもっとドレスに興味が持てるように、頑張ってみようと思う。
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結婚式の準備が一旦落ち着いた矢先、孤児院の院長先生から私宛に手紙が届いた。
「久しぶりに話がしたい」とのこと、院長先生からこのようにご連絡頂いたのは初めてだ。
院長先生のお話とは何だろうか?
私が退官した後も、孤児院の運営は順調だと人伝に聞いたが……。
思い当たることがなかった。
私は訝しんだが、差出は確かに孤児院からだった。クローディア公爵夫人に相談の上、明後日孤児院に伺う旨を返信した。
その場で、予想外の人に会うことになる。
異国の姫までお付き合い頂きました方々、ありがとうございます。
最後の話に入ります。完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。
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