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異国の姫19

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

「王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」


「婚前旅行は気に入ってくれた?」


こちらはドレール館で伯爵子息に部屋に侵入されたのに、分かっていてわざと言ってるな。


「お気遣い頂きありがとうございます」


私は淑女の仮面をしっかり被って答える。


「しかし、セレス嬢は本当に面白いね。

まさかこんな結果になるとは思わなかったよ。どこで分かったの?」



おそらく王太子殿下は、ドレール家と隣国の貴族との繋がりには気付いていた。



そのためにドレール家の興味を引くようにカグヤを向かわせる。

実際ドレール伯爵子息はその餌に引っかかってカグヤに何らかの危害を加えようとした。それを捕らえれば、ドレール伯爵家を調べるきっかけになる。



だからユリウス様を名代にして視察に行かせた。

私に危機が迫れば、彼の能力なら何らかの手掛かりを得られて、場合によっては伯爵を捕縛できると考えていたのだと思う。



一方で、昭国ゆかりの姫が隣国に向かうというのは事実だった。昭国の第一王女フェンを侍女に仕立てて、隣国に向かわせる。


フェン王女は捕虜として王宮に留められていると考えていた。王太子殿下は王女に詳細は伝えず、自分に仕えるかどうかを状況から選ばせた。


隣国に逃れずに王宮に戻ってきた王女は、王太子殿下の正式な臣下として認められるだろう。さしずめ私は、王女に何らかの影響を与えることを期待されたのだろうか?



「王太子殿下、お言葉ではございますが、

ドレール家の不法行為を明らかにしたのはクローディア公爵子息、攫われた人達を助け出したのは侍女のフェン、悪事に加担した者を捉えたのはジーク傭兵隊長です。

私は王太子殿下の御命令通り、ドレール領で注目を集めただけです」


「君が物的証拠を残さないのには、ある意味感心したよ」


「……何のお話でしょうか?」


私は淑女の笑顔でとぼける。


王太子殿下は軽く一息吐いて口を開いた。


「まあ、予想以上の収穫だから今回は許そう。

フェン王女については、内々に現昭国王から頼まれてね。隣国に行く機会を与えて、彼女を自由にしてほしいと。

まあ、隣国に行ったとしても自由になるとは限らないのにさ。条約が結ばれていない国だから、治安も良くないのにね。

昭国王も我が子可愛さに耄碌したよね。

王族に生まれた宿命からは逃れられないのにさ」


王太子殿下が言いたい放題してる。

それだけ機嫌が良いのか、今回の件で思うところがあったのだろう。


「でも王女は自分の意思で王宮に戻って来たんだから仕方ないよね。こちらは昭国王への義理も果たしたし」


「王太子殿下、なぜそのようなことを私に?」


「君はフェンの正体を知る数少ない人間だ。

彼女がこの国に居続けるためにも、理解者が必要になる。これからもよろしく頼むよ」


「ならば彼女には相応の待遇をお願いしたく存じます」


私は王太子殿下に頭を垂れる。


どこに行っても自由になれないことは、フェン王女自身が一番良く分かっているだろう。


ならば、せめて心の中だけでも、自由になってほしいと思った。


彼女が自分で選び取るという自由を、この先も手に出来れば……。



「君に言われなくとも、彼女を粗略に扱うことはしないよ。ところで今回の働きについて褒美をとらす。希望はあるかい?」



「では殿下にお引き合わせしたい者がおります」



「へえ、どんな人?」



「腕の良い付術師です。

今回攫われた人達を助け出し、悪事に加担した者を捕えるのに大きく尽力した者です。既に報告が上がっているかと思いますが、彼がいなければ、この結果にはならなかったでしょう。

彼は王宮の役に立つ技術を持っています。

第二王子殿下の成婚の儀を前に、王宮のセキュリティを底上げしようとお考えですよね?」



「まあね、昭国の控え室での件やタタ王女の件もあったからね。

君が言うなら役に立ちそうだ」



「ただその者は心から仕える主人の命でないと、実力を発揮できないクセのある人物なのです。

それでもお会いになりますか?」



「つまり私が主人になれるか試されるってこと?」



「御意。

秘術を扱う一族の者が背負う宿命みたいなものです。ご理解頂きたく」



「面白いね、私の器が試されるのか。

君の目に叶う者なら腕は確かなのだろう。

自分の代わりに、私に仕えさせるつもり?」



「私達は皆等しく、殿下の臣下でございます」



「うーむ、ならばしばらく様子を見ようかな」



「ありがとうございます」




✳︎




「えっ?マジで⁈あのクローディア公の弟子なの?」



「……ああ」



「すげー!俺クローディア公のファンで著書も全部読んだよー。子供心にすげー人だと思ったんだよー」



「……そうか」



王太子宮の庭園の隅にユリウス様とコウがいた。

コウのテンションに若干引き気味のユリウス様を見た。



「コウ、時間だよ。

この先にいらっしゃるから」



「俺の運命の人?」



「そう」



「分かったー」



私はコウの背中を見送る。



今回の一連のことについて、

偶然だったのは……ドレール領に監禁された人達がいたこと、これをコウが放って置かなかったことのみが偶然だった。


必然だったのは、ドレール家の悪事が明らかになること。

そして昭国の姫が隣国に向けて王宮を出たということ。

最後に、誰かが私の事を捕まえるようにコウに依頼したこと。


彼は貴族の依頼と殺しの依頼は受けないから、民間の仲介者を通して依頼されたのだろう。その過程で私の名前と身元の情報を得た。


しかもドレール領で遭遇させるなんて、王宮にいてある程度高度な情報を扱う者にしかできない。



しかしそれは王太子殿下ではない。



王太子殿下は私の魔法の技術を確かめて、王宮防衛能力の底上げを図ろうとした。王太子殿下が先にコウの存在を知っていれば、この目的は叶えられたはず。私から見れば、付術は攻撃よりも防御に向いている。


コウに依頼した人もたぶん私の魔法の技術を確かめようとした。魔法が使えれば、捕らえて連れてくるように指示したと考えるべきだろう。


コウが依頼者の元に戻らず、

また付術の痕跡は付術師のものしか残らないため、

私に関しては調査不足となるだろうか?

このまま様子を見るしかないか。



コウが向かった後、兄オリバーが庭園に姿を現した。



「お兄様、この度はご配慮頂きありがとうございます」



王太子殿下にコウを引き合わせる段取りを、王太子殿下の側近である兄にお願いしたのだ。


兄はコウの有用性を見抜くだろう。


付術のことはわからないだろうが、それを抜きにしても、コウは体術に関してなかなかの手練れなのだ。それらの技術を持ち、幼いながら身一つで旅ができる程に。



「レイ、今回のこと、王太子殿下は悪気があるわけではないと思う」



「お兄様、分かっております。あの方は国を背負われる御方、綺麗事だけではやってゆけません」



「そうだな」



「王太子殿下はお兄様が命をかけるに値する方です。

あの方はまるで、この国を守る剣のようですね」



「そうだ」



「一度剣を抜けば、死が隣に来るのです。

相手に向ける刃は、常に自分にも向いている。

その冷酷で平等なところをこわいと思う一方で、私は好ましいと思っております」



「……レイは変わらないな。

そのこわさを忘れないことが人として必要だ」



「しかしながら私は既に他の方に誓いを立てておりますので、ご期待に添えず」



「それでいいと思う。

できれば、こちら側には来るなよ。

私は昔から、妹には大人しく守られていてほしいと思っているよ」

いつもお付き合い頂き、ありがとうございます。

『異国の姫』あと1話です。

最後まで見届けて頂けると嬉しいです。


評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。

ありがとうございます^_^

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