異国の姫18
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私はフェンにもお礼を言った。
彼女は私と2人で話がしたいと言う。
ユリウス様は微妙な顔をしたが、少し離れたところで待機してもらった。
「お嬢様、いつから私の正体に気付いていたのですか?」
「今朝、馬車の中です」
「私は正体を明かすものは持ち合わせていないと思いましたが」
「私は昭国の特使団のお世話をさせて頂いていたのです。だから昭国の方を間近で見る機会があった。
あと昭国の言葉も、簡単な単語なら勉強しましたから。
王太子殿下からは知らされていないですか?」
「女性ながら官吏として王宮で働いていたとしか……」
「王太子殿下は有能な貴方を手元に置きたかったようですね。だから今回の役目を与えられた」
「よく、意味が分かりません。私は捕らえられた身、私に選択肢があるとは思いませんでした」
「それでも選んで、残ってほしいと思ったのでしょう」
「よく、意味が分かりません……」
「貴方は昭国からの密航者ですね?当時貴方を保護していた方はヤン殿下と対立していた派閥の方だった。貴方は密輸品と共にこの国に来た」
「……私がヤン殿下を暗殺する様にと送り込まれたのです」
「そこですが、実際は難しいと思います。
侍女として働く女性を除き、王宮に女性は少ないのです。だから黒髪黒目の貴方が入り込むには難しい。
まして特使団の登録のない貴方は男性を装ってでも難しい」
「そうでしたか……。私は港であっさり捕らえられてしまいましたから」
「そして貴方は最終的に王太子殿下に保護された。
貴方は暗殺のためではなくて、この国に亡命するために船に乗せられたのではないでしょうか?」
「亡命?まさか!
私は暗殺の訓練もしたのですよ」
「その手の傷もそうですね。クナイの練習をされたのでしょうか?その訓練は最終的に貴方の身を守ることに繋がるはずです」
「それは……否定はしませんが」
「密輸品関係の証拠はヤン殿下と対立する者を追い詰める証拠として、ユエ執務官に提供されました。本来なら貴方のことも含まれたはず。そうなれば貴方は昭国に戻り粛正の対象になったかもしれません。
しかしながら貴方はこの国に留め置かれた。貴方の身の安全を願い出た者がいたはずです」
「そんな……」
「貴方に生きて欲しいと願った者がいて、その結果今ここにいるのです」
「だけど、私は、もう」
「臣下の、民の願いを託されるのは王家に生まれた者の宿命では?」
「……」
「この国と昭国の繋がりは益々強くなります。そうすれば貴方の利用価値も上がる。
暗殺の技術ではなく、その対人スキルで身を立てることができるはず。
貴方がこの国で為すことが、ゆくゆくは貴方を生かした者達のためになりましょう」
「……そうでしょうか?」
「貴方がそう決めたなら、そうなるのですよ。王太子殿下がお望みなのは、自分の意思で、この国に残られるフェン王女なのです」
「……またその様に呼ばれるとは思いませんでした」
「今までの不敬をお許し下さい、王女殿下。
ちなみに私は短い髪もお似合いだと思います」
私はわざと一礼する。
「王女殿下がお望みなら、いまから隣国へ逃げましょうか?
貴方のお名前に込められたように、風のように自由に生きられるかもしれませんよ?」
フェン王女は少し考えて、首を振った。
彼女はわかっている。
何処に行っても、昭国の第一王女という肩書きは取れない。秘匿しても、いずれは明らかになってしまう。
それは彼女を生かすことにはなるが、誰かに利用されるものにもなり得るからだ。
自由を願われても、自由にはなれない立場。
王太子殿下は、それをよく分かっている。
それならばせめて、心の中で自由になってほしいと思う。
「自分で選んだ」という自由を持って、これから先を自分の意思で生きてほしい。
「王太子殿下は、私にお嬢様の身を守る様に指示されました。そして魔法を使えるのか良く観察しておくようにと」
フェン王女は静かに言った。
「宜しいのですか?私に話してしまって」
私は少し意地悪な顔をする。
「もうお察しでしょう?」
フェンは初めて小さく笑った。
私も小さく笑った。
「王太子殿下は、フェン王女を高く評価している。
今回の役目について、貴方は見たままを報告すれば良いのです。
貴方の今後にプラスになるはずです。
あとは貴方次第です」
私は手を差し出す。
握手を求めるつもりだった。
脳裏にユエ執務官との握手が思い出された。
「私がお嬢様をこちら側に引き込めば、出世間違いなしになるのでは?」
彼女が私の手を握りなら答えた。
「ふふ、冗談を言われるとは意外でした。
残念ですが、私は既に他の方に誓いを立てておりますので」
「それは残念です。私はお嬢様なら仕えても良いと思いましたのに」
フェン王女は悪戯な顔をした。
少しヤン殿下を思い出した。
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『異国の姫』あと2話です。
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