異国の姫14
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
ガチャガチャ
急にドアが開き、部屋の中にパンと水の入った袋が放り込まれる。食事みたいだ。
女性達に話を聞いていた通りならば、これは本日2回目の食事で、そろそろ夕方ということになる。
小窓から入る日の傾きから考えても、馬車から連れ去られて少なくとも5時間は経っただろうか?
ユリウス様は……大丈夫だろうか?
彼の能力なら大丈夫だと分かっていても、心が心配してしまう。
きっと私は、ユリウス様にいつもこんな思いをさせているのだろうな。相手の立場に立って初めて見えることもある。
ただこちらの守備がどうあれ、彼は王太子殿下の命を遂行できる。殿下の予想以上の収穫を持って王宮に戻れるだろう。
そしてフェンは無事にナユタ領に着いただろうか?
彼女はどちらを選択したのだろうか?
私がもっと早く気付いていれば、違う言葉をかけられただろうか?
そもそも私が予定通り国境に向かっていれば、道中にもっと伝えられることがあったかもしれないな。
馬車の中で向かい合ったフェンの顔を思い出す。
たぶん彼女には知らされていないことがあるのだろう。
全ての情報が揃った上で決断してほしいと思うけれど、現実はそうもいかない。
限られた情報の中で考えて、迷って、足掻いて、決断して、時に後悔する。
世の中は平等ではない。
身分も、環境も、そして情報も。
すると急に扉が開いて、1人の女性が部屋に放り込まれる。
短い黒髪の、王宮の侍女の服装をした女性だった。
「!」
私は駆け寄って、抱き起こす。
扉が閉まったのを確認して、私は小声で話し掛ける。
「フェン、大丈夫ですか?」
「大丈夫です、お嬢様」
私はフェンを扉より離れた所に連れて行く。
怪我はない様だが、服が汚れていた。
「どうしてここに?
ナユタ領には行けなかったのですか?」
「行きました。
ナユタ領に入ってすぐにジークという傭兵に会えました」
「良かった。まさか、それを伝えるために戻ってきたのですか?」
「それもありますが、お嬢様に聞きたいことがありまして」
「?」
「お嬢様なら、どちらの選択を選びますか?
王太子殿下に一生仕えるか、隣国へ逃げるか」
私は驚いた。
このような状況で、決して冗談で言っているわけではなさそうだ。
フェンはそんな私の顔を見て、ふっと笑った。
誰かに似ていた。
ヤン殿下だ。
この状況を面白がっているようにも見える。
つまり、彼女は提示された選択肢を選ばなかったのか。
あくまで「侍女役を続行する」ことが彼女の選んだ道。たとえその先に王太子殿下に仕える道が用意されていようとも。
この方も一筋縄ではいかない。
だから王太子殿下はこのような手段を取られたのだと理解する。
私は軽く一息吐く。
今の彼女になら、ありのままの自分で応えるのが最も相応しい。
「私なら、どちらも選びません。
隣国へは行かず、王太子殿下に取り込まれないように、本気で足掻こうと思います」
フェンはポカンとしたような顔をした。
彼女にとって予想外の返答だった様だ。
「あの方相手に、それができますか?」
フェンにも分かっているのだろう。
王太子殿下の人を従わせる強制力を。
国を背負って立つ方の、冷酷で非情な部分を。
「今はできる手立てが見当たりませんが、
とりあえず逃げながら考えようと思います」
私なりにドヤ顔をして答える。
ドヤ顔できるような内容ではないけれど、今の私の精一杯で応えたかった。
またまたフェンはポカンとしたような顔をした。
これも予想外の反応だったようだ。
「……逃げても、良いのでしょうか?」
フェンは、申し訳なさそうに言った。
今までの彼女の人生には、逃げるという選択肢がなかったのかもしれない。
色々思うところはあるが、シンプルに応えることにする。
だから私は片膝をついて、フェンの手を取って微笑む。
「良いと思います。
手始めに、ここから一緒に逃げましょうか」
いつもありがとうございます。
『異国の姫』あと6話で終わる予定です。
引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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