異国の姫13
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
その後、私は泣いている彼女達を1人1人宥めながら話を聞いた。
彼女達はそれぞれ王都近郊からドレール領に連れてこられて、一旦は何処かの屋敷の部屋に監禁されていたらしい。
彼女達の話を聞く限りでは、監禁先ではドレール伯爵子息の奥方らしき人が世話をしているようだった。
世話をしてくれた女性は彼女達に同情的であったらしい。食事も3食供され、時々湯も使わせてもらえたそうだ。
しかし屋敷には常に見張りがいて、しかも定期的にドレール伯爵夫人らしき人が様子を見に来ていて、逃げ出せるような状況ではなかった。
それが2日前に、突然この薄暗い部屋に移された。この部屋には、トイレがあるだけ。
食事は1日2食、パンと水だけという扱い。
しかも夜は毛布に包まって雑魚寝状態。
度重なる急激な環境変化で、何も知らされていない彼女達は、自分達がまもなく始末されると思ったのだろう。
情緒不安定になり、何かあると、また何もなくても泣き出してしまうようになった。
私はまず「自分達は殺されないこと」を伝える。「自分達は商品だから手荒なことはされないはずだ」と理解してもらう。
その上で「助けがくるので一緒に逃げよう」と伝える。
折れかかった心を立て直して、逃げる時に迷いなく動けるように、繰り返し言い聞かせる。
その時にこちらが焦ってはいけない。
静かに彼女達の気持ちに寄り添うように。
「大丈夫、なんとかなる」と思わせるように。
まるで暗示をかけるように。
✳︎
薄暗い半地下だが、小さな窓が1つあった。人は通れない大きさの窓だ。おそらく空気を入れ替えるためのものなのだろう。
私は窓の側の床に座って、待っていた。
「ヒメ、中の様子はどう?」
案の定、窓の外から飄々とした声がした。
「中は女性5人。大丈夫、落ち着いたよ」
「さすが、人心掌握が早い。
折角助けても、自分で動けない子は連れて出られないからねー。ヒメを連れて来て良かった良かった」
「それより着替えは?」
「これ」
丸めた服が、小窓から入れられる。
白いシャツとウエストが調節できる丈の長いパンツだった。
カグヤの服では動きにくいから助かる。
「ありがとう」
「町の様子を見てきたけど見張りが10人。
あと俺と一緒に来た10人は船に荷を積んでる。
明日朝に船が出るからか、町の人はどこかに行かされたみたいだね」
町の人がいないのは好都合だ。
「そう。術式は使えそう?」
コウが使おうとしている術は、一度見たことがあった。
貴族の屋敷を潰した時だ。
あの時は本当に驚いた。
屋敷の全ての生き物を瞬く間に無効化した。
殺してはいないが、人も番犬も馬も、全てが動けなくなった。
「問題ないよ。ただ範囲が広いし媒介を四方にはるから、発動までに30秒くらいかかる。その間に媒介を抜かれたらアウトかな。
まあ付与術式なんて今時レアだから、媒介のことも知らないと思うけどね」
コウなら媒介を抜かれるような真似はしないだろう。
「分かった。では私がここを出て逃げまわるから、その間にこの子達を南に逃して。ナユタ領に入れば保護してもらえる」
「え?ヒメは囮になるつもり⁈
だめだよ、危ないよー。
いいじゃん、俺の術で先に掃除してから、ゆっくり逃げれば。
術の範囲が大きいから黄昏時までは待たないとだけど」
「それだとまた同じ事が繰り返されるだけ。
大元は断たないと」
「大元?もしかして伯爵が来るとか?
あー、ヒメが攫われたから、領地は捜索されるもんね!
都合の悪いものを隠しにくるかぁ」
「今頃は領主館あたりから調べが始まっているんじゃないかな?
同じ事を繰り返させないためには証拠も必要だし、伯爵以外も捕らえないと。
コウのおかげだよ」
「それでも、ヒメが危険を犯して囮になる意味ってある?もしかして味方が助けに来るから、巻き込みたくないとか?」
「関係ない人を巻き込みたくないとは思ってるよ」
「あー、助けにはくるのか。
まあヒメは異国のお姫様だもんね。
そのままにするってわけにはいかないかー。
でも巻き添えになっても死ぬわけではないし、いんじゃね?
そもそも他の貴族がしっかりしていれば、こんなことにはなってないはずだろ?
民を守れないんだ。自業自得だよー」
「コウの言う事はわかるけど、現実的には難しい。貴族の自治権は大きいから他領には手を出せないし、伯爵のように家門ぐるみなら、他の貴族は気付かない」
「なんで貴族を庇うようなことを言うの?
あいつらがどんなに汚いことをしてきたか、ヒメは知っているよね?」
「私も前はそう思っていた。だけどそうじゃない人もいるって知ったんだよ」
「そうじゃない人?あの銀髪の貴族とか?」
「コウ、彼は……」
「あんだけ貴族が嫌いだったヒメが変われる?
それとも好きになったの?あいつを?」
「……そうだよ」
「それで助けを期待してるわけ?
……ヒメは弱くなったね」
「そうだね。私は弱くなった」
「……ごめん、言い過ぎた。でもまだ信じられない」
「ねえ、コウ、関係ない人を巻き込みたくないのは本当だよ。それに私は彼女達をここから出してあげたい。自ら走れるうちに、自分の足で外に出られるようにしてあげたいと思う」
「……ヒメのそういうところは変わってないね。
彼女達のこれからを考えれば、それがベストだと思うけどさ」
「コウも変わっていない。
こういうことを見過ごせないところ。
コウなら、彼女達を逃がせるでしょう?
私は私の出来ることで彼女達を助けるよ」
「わかったよ、もー!なら夕方に動こう。
術式を仕込んでから、呼びに来るよぅ」
「コウなら分かってくれると思ったよ。
彼女達を逃したら、港町の南側に結界を張れないかな?巻き込みたくないし」
「いいけど、そうしたら捕縛の術式の起動ができない。ヒメが関係ないやつを巻き込みたくないと言うなら、術式の起動はヒメがやってくれる?」
「分かった。捕縛の術式が完了したら、結界は解いて」
「結界解いちゃうの?なんでー?
まあ、久しぶりにヒメの術が見れるからいいかー」
「術式起動のタイミングは?」
「結界を張ってから30秒ってとこ」
「分かった」
いつもありがとうございます。
『異国の姫』長くなってしまっておりますが、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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