異国の姫12
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
ドレール伯爵夫妻に森を案内して頂いた後、お礼を言ってカグヤ一行は別れた。
カグヤとフェンは馬車に乗り、護衛2人と共にナユタ領に向かう道を進む。
馬車が動き出してすぐ、私は自分の髪から、簪を全て抜いた。
そして王家の魔導具が使用されている簪を懐に大事にしまい、残りをフェンに渡す。
「お嬢様、一体どうされたのです?」
「フェン、貴方に頼みがあるの。
もし私に何かあれば、護衛の1人に応援を呼びに行かせて。そしてクローディア公爵子息の元に、急ぎ騎士団を遣わして下さい。
王太子殿下、又はその配下と連絡が取れるようにしているのでしょう?」
「お嬢様、何を仰っているのですか⁈」
「そして貴方は護衛を1人連れて、ナユタ領に行って。ジークという傭兵がいるから、これを渡して欲しいの」
私は小さなメモを渡す。
「それを渡した後、貴方には2つの選択肢がある。
1つはそのまま王太子殿下の元に戻る道、
もう1つはこの騒ぎに乗じて隣国に渡る道」
「隣国?」
「隣国に渡れば、この国の者は手出しできない。
これは貴方がこの国から自由になる、最後の機会だと思う」
「何を言っているのですか⁈
お嬢様に何かあったら、私は……」
「これから何か起こっても、それは不可抗力。
王太子殿下も分かって下さる。
貴方は立派に役目を果たしたのだから」
「ですが、私には……」
「ここから先に何かあっても、貴方は私の身代わりはできない」
「お嬢様、どうしてそれを……?」
「もっと早く気付くべきでした。
貴方からお借りした付け毛は、貴方の髪で作ったものですね?とても皆から大事にされていた方だということがわかります。
そして『フェン』という名前は、昭国ではフォンという発音に近いのでしょうか?
この国の言葉で『風』という意味ですね。
お父様は第一子の貴方に、できれば自由に生きて欲しかったのでしょう」
「……」
「だからこれが自由になる最後の機会、
自分で選べる最後のチャンスです。
後悔のない選択をして下さい」
ガタン
急に馬車が止まる。
そして馬車の扉が開けられた。
「これはこれは麗しい姫、俺達と一緒にきてもらおうか」
ヒョロリとした長身の三つ編みの男が立っている。手には短剣が握られている。
飄々とした言い方に緊張感はない。
馬車の周りを、武器を持った男達が10人程取り囲んでいた。
「抵抗すると、お付きの人たちを殺しちゃうよ」
弓矢を持っている男もいるので、護衛2人では明らかに分が悪い。
私はコウの方へゆっくり移動する。
「お嬢様!」
「侍女さんは動かない方がいいよー。
馬車の外から槍で一刺しされちゃうから」
私が馬車を下りようとすると、コウに抱き上げられた。
「じゃあ護衛と侍女を動けないようにしてから、さっさと行くよー」
私はコウに荷馬車に乗せられて、黒いローブを被せられる。
私の隣にコウが座る。
しばらくして他の男たちが戻ってきて、荷馬車は静かに出発した。
✳︎
私はフードを深々と被り、足を抱えた。
とりあえず深層のお姫様を演じ続ける。
コウが短剣をチラつかせながら耳元で囁く。
「ねえ、昨日の主賓の男がヒメの雇用主?」
私は首を振る。
「ヒメが誰かを側に置くなんてなかったじゃん。
俺みたいに一時的に行動を共にしてんじゃないの?」
また首を振る。
「あ、もしかして探し人?見つかったんだ」
今度は頷いた。
「いいなー。俺の運命の人はまだ見つからないんだよ。今まで会った中じゃヒメが一番良かったのに。
だから『ヒメ』って呼んでるくらいなのに」
「大丈夫、まもなく見つかるよ」
私は小声で言う。
「なにそれ、予言?」
彼が面白そうに言う。
「まあね」
私はコウ以外にわからないように、微笑んだ。
✳︎
ほどなくして荷馬車は港町に着き、私は船着場に近い半地下のような場所に連れて行かれた。
頑丈な扉を開けて、部屋の中に入れられる。
薄暗いところに5人の女性がいた。
皆一様に暗い表情をしている。無理もない。
急に攫われて閉じ込められて、怖い思いをしたのだろうから。
外から鍵がかけられる。重々しい音が響いた。
中にいる女性達は私を見て、呆然としているようだった。
その内の1人が、突然泣き出してしまった。
それを皮切りに、他の女性も次々に泣き出してしまう。
薄暗い場所で助けも見込めないから、恐怖が増幅して伝染する。
私は最初に泣き出した女性に近付いて、そっと抱き締める。
そして耳元でゆっくりと囁いた。
「怖かったですよね。もう大丈夫ですよ。
できれば落ち着いて、静かに聞いてください。
私は貴方を助けに来たのです。
皆で一緒にここから逃げるために、力を貸して下さい」
いつもありがとうございます。
『異国の姫』長くなってしまっておりますが、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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