特使5 着任1日目夜
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私が特使付き官吏として着任した1日目の夜、クローディア公爵家別宅に帰ると、ユリウス様がいた。
特使滞在期間前から、ユリウス様は王宮に泊まり職務にあたっている。
特に第二王子殿下は各国特使から成人の祝いを受けるため、側近達は多忙を極めているはずだ。
「レイ、特使の仕事はどうだった?」
私はユリウス様に、今日の出来事を簡単に話す。
ずっとヤン殿下の話し相手をしていたので他の事は出来なかったから、あまり報告することがない。
ヤン殿下の相手をしていた報告をしたあたりから、ユリウス様の顔がだんだん曇ってくる。
「ヤン殿下がレイの容姿を気に入ったというのは本当だったのだな……」
ユリウス様の機嫌が急降下するのを感じる。
しかし私としてはユリウス様に隠し事をしたくない。
官吏になったことを黙っていた件を猛烈に反省しているからだ。
同じ目に遭うのは避けたい。
「そのうちに飽きられると思いますので、ご心配には及びません」
「それ、本気で言っている?」
ユリウス様が険悪な顔をしている。
美形が怒ると、美しさからくる圧が半端ない。
私は耐えられず、少しずつ後退した。
「レイは自分のことを全くわかっていない」
腕を取られて、身体が引き寄せられる。
「あっ」
顎を持ち上げられて、口を塞がれた。
これをされると、他には何も考えられなくなってしまう。
目の前の人のこと以外は。
やっと離された後、私の意識が定まるまでユリウス様の腕の中で過ごす。
やっと何か言えるくらいに意識が戻ってきたところで、私は口を開く。
「私は今まで自分の容姿で求められたことがないので知りませんでしたが、正直居心地が良くなかったのです。
ユリウス様は今までこういう思いをなさってきたのですね……」
「俺はもう慣れたから。
それにレイの容姿に惹かれた者もいただろうに、当の本人が気付かないからな」
「そんな人はいなかったと思いますよ。
まあ、今は目の前の人のことでいっぱいいっぱいですから」
「それはどういう意味?」
「他の人は目に入らない、という意味です」
「ならばいい。でも心配だから、これを着けてくれる?」
ユリウス様は小さな銀色のアクセサリーを出した。
「これ、ユリウス様がいつも身に付けている耳飾りですか?」
そう言って彼の顔を見ると、左耳に同じ物があった。
「これはスペアだ。祖父作った魔導具で、精神を操作する系統の魔法を跳ね返す。特使滞在のエリアは基本的に治外法権だから、念の為身に付けておいて欲しい」
「こんな貴重な物を宜しいのですか?前公爵様がユリウス様のために作られたのでしょうに」
「もともとは祖父が祖母のために作った技術だ。俺の容姿を祖父が心配してくれてね。これとスペアを遺してくれた」
そう言いながら、ユリウス様は少し辛そうな顔をする。
「俺がこれをレイに渡さなかったのは、レイを自分の手で守りたかったから。だがレイが特使のエリアにいる限り、俺は直接守れない」
「ユリウス様、お気持ち嬉しいです」
「あと、、この魔導具は慣れるまで耳が痛いんだ。それでも身に付けてくれる?」
「はい」
ユリウス様の手が伸びて、耳に触れる。
カチンと金属がはまる音と共にチクンと刺す様な痛みがした。
しばらくしてズキズキとした痛みに変わる。
少し目が潤んでしまう。
慣れるまでの辛抱だ。
「平気?」
「……思ったよりは痛くないです」
私は少し強がって答える。
彼をこれ以上心配させたくない。
「我慢してる」
彼に口付けられる。
痛みで敏感になっているせいか、いつもより感じてしまい刺激が強い。
「んっ、ユリウス様待って」
抵抗も虚しく、捕らえられてしまう。
「涙ぐんで可愛いから、待てない」
その晩はずっと口付けされていた。
たくさん痕をつけられて、翌日見えない様にするのが大変だった。
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