異国の姫9
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私は窓からフェンの部屋に戻る。
廊下の物音を確認する。
私が夕食会を中座して1時間くらい経っただろうか?
ユリウス様のことだから、彼の仕事に必要な情報を引き出したら早々に切り上げるはず。
私は少し考えて、ひとり小声で呟く。
「今からユリウス様の部屋に行きます」
彼に魔法をかけてから後、私の発言は全て彼に聞こえているから、これでわかるだろう。
この魔法は王族付き魔法士から習った基礎中の基礎、自分の声が特定の者に届く魔法だ。
少ない魔力でできる上、さらにそれを感知されないように魔法で隠した。
魔法をかけた時に同じ部屋にいたフェンにも気付かれていないはず。彼女には、私が彼に抱きついていた様に見えていたと思う。
私とユリウス様の関係性を知っている彼女には不自然には見えなかっただろう。
私はドアを開けて外に人がいないことを確認して、ユリウス様の部屋に素早く入る。
部屋の中にユリウス様を探したがいない。
まだ部屋に戻っていなかったかな?
すると後ろからいきなり抱き締められた。
「!」
「この部屋の盗聴は無効化した」
ユリウス様が耳元で言う。
「ユリウス様、ありがとうございます」
私はホッとして答える。
ユリウス様の方を向き直ると、いきなり口を塞がれた。
「んっ」
彼の、私を捕える腕が強まる。
意識が持っていかれる。
目の前の人のことしか、考えられなくなる。
私は半分ボーとした頭で、思った。
私が自分の声を聞かせる魔法をかけたせいで、ユリウス様は既に察している。
これから私の身に起こりそうなことを、
王太子殿下が私達を遣わした理由を、
そして、私がコウの誘いを断らなかった理由を。
この魔法は、あくまで私が話すことが聞こえるだけ。
しかしユリウス様なら推測できると思っていた。相手との会話の内容を。
この屋敷にいる限り、ユリウス様と表立って話すことができない。
咄嗟に思い付いた手段だったが、そして予想通りの効果はあったが、彼の気持ちを考慮するところまでは及ばなかった。
また心配させていることに、胸が痛い。
やっと唇が離される。
アイスブルーの瞳を見る。
やはり心配の色が浮かんでいる。
私は胸が苦しくなった。
「ユリウス様、好きです」
「どうした?突然」
「だから私を信じて下さい。
ご自分の見る目を信じて」
「はあー、レイには敵わないな」
「記憶を失った私が『ユリウス様は苦労する』と言っていた通りになっちゃいましたね」
「はあー、これも惚れた弱みってやつ」
「ふふ」
「レイ、俺の言いたいことがわかる?」
「色々あると思いますが、まずはコウのことから。彼とはクローディア領で会いました。記憶を失った私と同じ9歳の頃に一度、行動を共にしました。お互い身元は言わなかったのですが、多分私よりも年上です。
彼も魔術が使えるのですよ。『付術師』といって、物に術を付与して展開する術者です。
彼は金属製の細長い針を媒介にします」
「付術師?
名前だけなら聞いたことがあるが、実在するのだな」
「なかなかの腕前かと思います。
そういう意味では、私の身は安全かもしれません」
「全く説得力がないが、とりあえず分かった。
こちらが片付いたら、俺も港町に向かうから」
「ありがとうございます。
おそらく大掛かりな付与術式を使うことになるので、術式が解除されるまでは近付かないで下さいね。巻き込まれますから」
「分かった。それでどう動く?
王太子殿下の侍女のこともあるだろう?」
「それなら私に考えがあります。
あと、ユリウス様にお願いがあります」
「内容によるな。
特にドレール伯爵子息に関するお願いは聞けない。
あれは俺の方で片付ける」
ユリウス様の顔が一気に険しくなる。
これは相当に怒っている……。
私に薬を盛ったのはドレール伯爵子息だと、言葉にしないように注意して会話していたつもりだけど、もう見抜かれている。
「ま、まずは状況を使って情報の真偽を確かめましょう。私の案を聞いて頂けますか?」
私は宥める様に言った。
もちろんドレール伯爵子息を庇うわけではない。伯爵子息にはそれなりに役に立ってもらわなければ。
いつもありがとうございます。
『異国の姫』長くなってしまっておりますが、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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