異国の姫7
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
しかし、夕食会の時も視線は続いた。
ドレール伯爵一家は昭国の文化がお好きとのこと。だから私の衣装に興味があるのかと思ったが、どうやらそれだけではないようだ。
衣装だけではない、長い黒い髪にも興味があるようだ。
要は昭国の人が好きってこと?
夕食会に同席しているドレール伯爵子息の奥方も、暗い髪色だしなぁ。
それにしても奥方は顔色が悪いな。
まるで何かに怯えている様だ。
それに気付かずに視線を向けてくるのがドレール伯爵子息だ。
こちらを見ずに、隣の奥方を気遣ってほしい。
あー、食欲がなくなる。
そんな事は顔に出さないように努める。
私に振られる話題は、後ろに控えているフェンが卒なく応えてくれる。
昭国の知識も詳しい。
こんなに詳しい人が王宮にいるなんて。
もちろん詳しい官吏もいるが、そういう人はクローディア公爵閣下と一緒に昭国に行っているはず。
機知に富み、どんな話題にも応じられる。すごい侍女だ。
そしてそんなフェンの様子を見て、なぜ私がこの格好でここに遣わされたかがわかった。
王太子殿下はドレール伯爵家の好みを予め調べていたのだろう。
しかしながら、あの王太子殿下ならばそれだけではないはず。
私に注目を集めさせて、何が狙いなのか?
私はシャンパンを少し口に含む。
舌先が少しピリっとした。
シャンパンの炭酸ではない。
これは…何か入っている⁈
私は過去に睡眠薬を飲まされて拉致されたことがあったから、その後、自分なりに薬のことはかなり勉強した。しかしこれだけで薬を特定することなんて、もちろんできない。
ピリッとしたから毒かと思ったが、ここで私に毒を盛っても益がないように思う。
ならば毒以外の可能性で考えた方が良いか?
今の段階で薬の特定はできないが、なるべく絞り込む。
私は場の話を聞くような微笑みを作って、素早く周囲を見渡す。
他の人も同じシャンパンを普通に飲んでいる。
ならば私だけが薬を盛られている?
だとすると給仕した者が関係しているな。
部屋を見渡して給仕した者を目端に捉える。
向こうもこちらを見ていた。
長い深緋の髪を三つ編みに結っている、若い男性だ。長身ながらヒョロリとした体躯が特徴的である。ニコニコしているけど、なんか含みのある笑いだ。
彼と目が合う。
黒かと思ったけど、髪色と同じ深緋な瞳の色。
この瞳はどこかで……。
すると彼が瞬いた。また瞬き。また……。
私は堪らず目を逸らした。
パシャ
手に持っていたシャンパンをテーブルクロスに溢す。
そして右隣にいるユリウス様に寄りかかる。
「どうされました、カグヤ様⁈」
場が騒然とする。
私は扇を広げて顔を伏せる。
扇の陰でわからない様に、ユリウス様の服をぎゅっと掴む。
「カグヤ殿は具合が思わしくないようなので部屋で休ませたいのだが」
ユリウス様が私を抱き上げて席を立つ。
私は扇で顔を覆ったまま、運ばれて行く。
私は部屋を出る前にそこにいる人達をさっと確認する。
ドレール伯爵家の人は皆驚いた顔だ。
ただ伯爵子息は顔を作っていた。なぜそう思うかというと、口元が中途半端に作れていない印象だったから。
私は、表情をコントロールするのはそれなりに訓練が必要なのではないかと思っている。
だから何かが相違すると、見ている人には違和感として残る。市井の人達の間では、こういうのを「嘘くさい」って言うんだっけ?
例の給仕は……口元が笑っていた。
私はユリウス様に横抱きにされて移動する。
急いで部屋に案内するドレール家の家令と、私に付き添うためにフェンが足早に付いてきた。
家令に案内された部屋で寝台に寝かされる。
ゲストルームにしては豪勢な部屋だ。
暖炉まである。
家令が出て行ったのに見て、私はゆっくりと寝台から離れる。
ユリウス様の手を引いて部屋の入り口近くに立ち、彼の耳元で囁く。
「運んで下さりありがとうございます。
ユリウス様は食事に戻って下さい。
ただし十分に気をつけて」
「レイ、だか」
私は背伸びをして、ユリウス様の額に自分の額を軽く当てた。
一瞬触れ合う。
私は小さくパチンと指を鳴らす。
「ユリウス様に魔法をかけました。
今晩まで私の話す声が聞こえるはずです。
他に感知されないようにしてあります」
彼の再度耳元で囁き、素早くユリウス様から離れる。
そして微笑んだ。
ユリウス様は少し辛そうな顔をして部屋を出て行った。
部屋にはフェンと私が残された。
「お嬢様、体調は大丈夫ですか?」
私はフェンを手招きする。
そして彼女の耳元で囁く。
「この部屋が盗聴されているか調べて下さい。
貴方ならできますね?」
フェンは一瞬驚いた顔をしたが、少し考える仕草をしてから、黙って部屋にある物を調べ出した。
一通り調べ終わったフェンが静かに言った。
「お嬢様、この部屋は盗聴の可能性はありません。しかしながら……」
「この部屋に入れる隠し通路があったのですね?」
「どうしてそれを?」
「先程供されたシャンパンに薬が入っていました」
「⁈」
「そして案内された部屋に隠し通路があるのなら、私をどうにかしたい人がいるみたいですね」
「どうにかって、まさか……」
「ねえフェン、貴方の役目は何かしら?」
「私はお嬢様のお世話を……」
「王太子殿下からはどんな指示を受けている?」
「……何のことでしょうか?」
「貴方がただの侍女ではないことはわかります。
また貴方が忠誠を誓っているのは王家ではない。
王太子殿下に、ですね?」
「お、同じ事ではないですか?
王太子殿下はいずれ王になる方ですし」
「貴方や私のような人間にとっては同じではないでしょう?貴方なら良くお分かりのはず」
「……」
「貴方が王太子殿下の命を、簡単に私に明かせないことも理解しています。
それでも明かして、協力してほしい。
それが難しいならこれだけ教えてほしい。
貴方の職務の中に私を守ることは含まれますか?」
「それは……含まれます。
私はお嬢様のお世話をすることが仕事ですから」
「では、私の身を守るために2つお願いがあります。1つは、シャンパンに薬が入っていた件の証拠を押さえること。もう1つは……」
いつもありがとうございます。
『異国の姫』の後に最後の話入りたいと思います。引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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