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異国の姫6

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

「失礼致します。まもなく王都を抜けますので、クローディア公爵子息は王家の馬車にお願いできますか?」



「もうそんな時間か?」



「はい。ここから先は王太子殿下の名代としての務めをお願い致します」



「……分かった」



「ユリウス様、口紅が付いてしまいました」



私はハンカチを渡す。



「ああ、気をつける」



ユリウス様と入れ替わりにフェンが馬車に乗り込む。

私を見るなり、手早く化粧を直してくれた。


化粧直しの時に気付いたが、フェンの手には、無数の小さな傷があった。最近のものではない。昔からの傷だろうか?



「お嬢様、ここからは昭国ゆかりの姫カグヤとしてのお役目をお願い致します」



「承知しております。フェンさん、改めてよろしくお願い致します」



「私はお嬢様の侍女なので、呼び捨てで結構です」



「ではフェン、私は昭国ゆかりの姫でお忍びで旅をしているという設定でしたよね?

ドレール領までは王太子殿下の名代が送って下さり、国境を越えて隣国に向かうという筋書きで良かったでしょうか?」



「左様でございます」



「フェンの役目を伺っても良いですか?」



「私はお嬢様の侍女として、身の回りのお世話をさせて頂きます」



綺麗な発音、言葉遣いだと思う。

マナー講師のような、模範的な佇まいだ。

侍女にしては気品がある。


気品のようにその人から滲み出るものは、長い年月を経て培われたものの場合が多い。

きっと大切に育てられたご令嬢なのだろう。


私は気になっていることを尋ねた。



「フェンはいつから王宮にいるのですか?」



「……半年程前からです」


半年前というと、特使達が帰国した頃か。



「御出身はどちらですか?」



「申し訳ございません。私自身の詮索はどうぞお控え下さい」



彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。

悪いと思いつつ、私は続けた。



「では最後に一つ教えて頂けませんか?

貴方は……誰に忠誠を誓っているのですか?」



「……王家でございます」



「……そうですか。教えて下さりありがとうございます。以降は侍女としてよろしく頼みます、フェン」


✳︎



馬車はドレール領に入り、私は窓から外を盗み見る。



ここには二度来たことがある。

一度は孤児院を訪ねて、もう一度は前領主の娘であるアメリア様の誘いで。



前領主であるドロール男爵の不法行為によりドロール男爵家はお取り潰し、その後領地は同門のドレール伯爵家によって治められている。


数年ぶりに見る領地の様子はあまり変わっていないようだった。

領民は農業で生計を立てているのだが、どこか怯えているようにも見える時がある。


収穫された作物は港町から船で王都に運ばれるそうだ。

港町は小さいながら領地内では一番賑わっている場所で、明らかに領民ではない人達が出入りしていたことを思い出す。


当時は領主お抱えの犯罪集団が移動する経路として、港町が使われていた。


前領主と共に犯罪集団のメンバーも捕縛された今、少しは雰囲気が変わっただろうか?


そうこうするうちにドレール伯爵家に到着した。

今日はこちらで一泊させて頂くことになっている。



「ようこそお越し頂きました、クローディア公爵子息」


馬車の外でドレール伯爵一家のお出迎えがあり、ユリウス様が挨拶されている様子が伺えた。



ドレール伯爵には王家主催の夜会で一度挨拶したことがあるが、私がセレス伯爵令嬢だとバレないだろうか?



「お嬢様、心配することはございません」


フェンが私に声をかける。

タイミングが良すぎて少し驚く。

そんなに顔に出ていただろうか?


「ありがとう、フェン」


私は一息吐く。

ここからは役目を果たすだけだ。


外での挨拶が終わって馬車の扉が開く。


見慣れた手が差し出される。

私はその手を迷わず取る。


軽やかに降り立ち、優雅に一礼する。


そして挨拶の代わりに微笑んだ。


「こちらはカグヤ姫。

昭国ゆかりの姫君であり、現在お忍びで旅をしております。

本日はお世話になりますと申しております」


私は一言も話さず、全てフェンが答えてくれる。


ドレール伯爵や他の人とのやり取りも全てフェンがやってくれる。

カグヤはこの国の言葉が話せないので、フェンが通訳するという設定なのだ。


そのため、私の役目はただ微笑んでいれば良いだけなのだ。


だがしかし…非常に居心地が悪い。

私は堪らず、扇を出して顔を隠した。



先程からじっとりとした視線が絡みつくからだ。

私を見定めている、まるで値踏みしているような視線が複数ある。

この嫌悪感はいつまで経っても慣れない。



扇をずらして視線を追う。



1人はドレール伯爵夫人、あと隣にいる息子のドレール伯爵子息、この2人は不躾なくらい見てくる。

ドレール伯爵もチラチラとこちらを伺う。

出迎えている使用人達からもチラチラ視線を感じる。派手な格好だし、ある程度仕方ないと思っていたが……。



挨拶も終わり、屋敷の中に入ることになった。



するとドレール伯爵子息がこちらに近付いてきた。

ぞわっとして、嫌悪感が増す。

私は堪らずフェンの後ろに隠れてしまった。


それに気付いたユリウス様が、遮る様に立ってくれたのでホッとする。

私はユリウス様にエスコートされて屋敷に入る。



「大丈夫?」



ユリウス様が耳元で囁く。

私は黙って頷いた。

また心配させてしまったと、頭では反省する。

でも体は正直なので、エスコートされる手に力が入ってしまった。



今回は護衛が10人以上付いているのだ。

ユリウス様に心配させるような状況ではないのに。

気を引き締めないと。

いつもありがとうございます。

『異国の姫』の後に最後の話入りたいと思います。引き続きお付き合い頂ければ幸いです。


評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。

ありがとうございます^_^

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