異国の姫4
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
視察予定の1日前、王宮から迎えが来た。
私は昭国ゆかりの姫役になるため事前に王宮で準備をし、王宮から視察先に直接馬車で向かうらしい。
正直、手が混んでいる。
しかしそれを可能にする王家の力に、正直身が竦む。
王宮に着いた私は王太子妃宮に通され、王太子妃殿下にご挨拶をする。準備とやらは妃殿下のところで行うようだ。
王太子妃殿下は夜会の時に二度ほど挨拶させて頂いている。王太子殿下に似た、落ち着いた雰囲気の方だ。
「王太子殿下からセレス嬢を着飾らせて良いと聞いて、私楽しみにしておりましたのよ」
と、妃殿下は恐ろしいことを言われた。
その言葉通りその日は着せ替え人形のようになり、翌日、視察の日を迎える。
「王太子殿下、いかがでしょう?」
「さすが我が妃だ。これならセレス嬢とわかるまい」
朝からくたくたな私の前で、両殿下が仲睦まじく過ごされている。
「これで『月の精霊』に会わせてあげられなかった埋め合わせになったかい?」
王太子殿下が申し訳なさそうに言う。
「殿下にもお考えがあってのことだと分かっておりますから。でもお気遣い頂いて嬉しゅうございます」
妃殿下が嬉しそうに言う。
お2人の様子を見れば、王太子殿下が妃殿下のことを大事にされている様子がわかる。
そう、良くわかるのだが……。
王太子殿下が妃殿下を大事にされているのは本当だと思う。
あとライオール殿下のことも、弟として大事にされていると聞いている。
しかしながら王太子殿下はそういう気持ちを、切り離して考えられる御方だ。
為政者として、個人の感情と国の利益を切り離して考えられる。
国を背負って立つ者として当然かと思われるが、現実的には難しい。どうしたって情はある。立場は違うが、クローディア公爵閣下なら迷わず夫人を取るだろう。
でも王太子殿下は迷わず国を取る。
そこに個人的な感情は挟まない。
平等に冷酷に切り捨てられる。
可愛い弟の友人やその婚約者は、あくまで駒の一つ。
自分の即位に向けて不要な者を捨てて、空白を手駒で埋めていく作業をしている最中だろう。
だから私を駒として取り込みたいのだろうか?
王太子殿下は人望が厚いだけではない。
他人を支配下におく方法を良く分かっている。
敬愛、信頼、共感、
畏怖、不安、後悔……。
その対象者が抱く感情は様々あれど、一番効果的な方法を意図的に選択できる。
利害、依存、期待……。
さしずめ私は「利害」で提案されたというところだろうか?
私がこわいと思うのは、
王太子殿下が強制しなくても、
相手に自ら膝を折らせてしまうカリスマ性だ。
王太子と言う立場ではなく、
殿下個人に絶対的な正しさを見てしまい、
忠誠を誓ってしまうほどの魅力。
兄オリバーのように、命を預けるまでに。
その魅力に取り込まれたら、私だってわからない。人の心は弱いから、どうしたって強いものに憧れてしまう。
だから近付きたくない。
私は既に誓いを立てている人がいるから。
妃殿下と着替えを手伝ってくれた侍女達が退出され、王太子殿下と私が残された。
すると王太子殿下の側に、侍女が1人控える。
着替えを手伝ってくれた侍女とは違う人だ。
王宮内で初めて見る顔だ。
「さてセレス嬢、ここからは昭国ゆかりの姫、カグヤとなってもらう。ドレール地方で一泊し、その後国境沿いまで姫役を頼むよ」
「恐れながら申し上げます。
殿下は私に何を期待されておられるのでしょうか?
この命の目的を教えて頂くことはできますか?」
「私に直接問うとは、度胸があるね。
悪くない判断だ。
そうだね、君にはドレール領で注目を集めてほしいんだ。だから存在感のある姫を演じてくれればいい」
「ご期待に添える様に努力致します」
「それ以外は好きにしてていいよ。
ああ、この侍女を連れて行くといい。
旅先での支度もあるしね」
「フェンと申します。
よろしくお願い致します、カグヤお嬢様」
フェンと名乗った侍女はサラサラとした短い黒髪の女性で、切れ長の目に黒い瞳だった。
纏う雰囲気が昭国の特使達に似ている。
おそらく東の国の出身なのだろう。
なるほど、そういう設定なのか。
侍女役も本格的だ。
私の格好と良い、この力の入れように、正直不安しかない。
「よろしくお願い致します」
私はあくまで平常を装う。
「じゃあ、ユリウスとの旅行だと思って楽しんできてよ」
王太子殿下はニコニコして送り出してくれた。
いつもありがとうございます。
『異国の姫』の後に最後の話入りたいと思います。引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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