エリザベス様
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「お姉様聞いて下さい!
今日のクリスは、植物の研究に没頭して私の話を聞いていなかったのです。でも夢中になっている顔を見ていると私も嬉しくなってしまうというか、もっと見ていたくなってしまうというか……」
公爵邸にいる時、私はエリザベス様のお話を聞くのが日課になっている。
エリザベス様は毎日の様にクリスに会いに行くので、話題は大概クリスとの話になる。
話を聞いている限り、仲が良さそうだ。
というか、エリザベス様はクリスがどんな事をしていても素敵だと、肯定してくれる。
器が大きいところは、ユリウス様と一緒だ。
エリザベス様自身は色々忙しい。
淑女教育があるし、王立学園への入学を控えている。さらに筆頭公爵家の令嬢として社交も多い。
それらをきちんと済ませてクリスのところに行くのだから、すごいと思う。
私は今まで、伯爵家以上の令嬢との付き合いがなかった。
学園は学生として平等を謳っていてもそこは貴族社会の縮図、身分の低い者が高位の者に声をかけることは難しい。
だから当時子爵家だった私と付き合いがあったのは、子爵家以下のご令嬢ばかり。
例外的にシルフィーユ様に声をかけて頂いたくらいで、基本的に高位のご令嬢との付き合いはない。
学園を卒業後は官吏として働いていたから、社交はしていなかった。
またミア様の秘書官として王宮に上がった時も同じ。官吏として高位の令嬢に仕えていただけなので、私自身は高位のご令嬢との付き合いがない。
今後は茶会等を通して高位のご令嬢とのお付き合いの仕方を学ばなければならないが、クローディア公爵夫人が帰国されるまでは見送られている。
エリザベス様は、いわば私の中で未知の世界にあたる場所で活躍されている方なのだ。
私はエリザベス様のことを可愛らしく思うとともに、とても尊敬している。
それにエリザベス様は、少しシルフィーユ様に似ているところがある。この方にも取り繕われていない美しさがある。
それは私には永遠に手に入らないもの。
だからなのか、それを持っている人を見ると、ずっと見ていたい気持ちになってしまう。
シルフィーユ様は憧れの気持ちで、エリザベス様は愛おしい気持ちで。
そういう気持ちでエリザベス様を見つめていると、エリザベス様の顔が赤くなっていることに気付いた。
「エリザベス様、お顔が赤いようですが、体調は大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですわ、お姉様!
私、少し席を外しますわね」
そう言って、そそくさと席を立ってしまわれた。
私、何か不調法なことをしたかな?
エリザベス様の侍女達を見ると、皆なんだか顔が赤い。数人が私から目を逸らしている。エリザベス様の侍女頭を見ると、私の方を向いて顔を横に振っていた。私は何かダメな事をしたようだ。でも何がダメなのかは教えてもらえなかった。
距離が近かったかな?
「あれ?
レイお姉様、いつもと違う格好ですね」
「サラ様」
「エリザベスお姉様と一緒にお茶をしていると聞いて伺ったのですが、その格好は?」
「ええ、今日は厩舎の方に行ってきたので」
私は上は白いシャツと黒いジャケット、下は白いパンツとブーツで、乗馬ができる格好になっているのだ。母家に戻ってきてすぐにお茶をすることになったので、このままの格好でお茶会に参加させてもらった。
今はクローディア夫妻が不在なので、普段行ったことのない公爵邸を探検している。
庭師の仕事を見たり、厩舎や護衛官の詰所等にも顔を出してみた。この格好ならドレスよりも動きやすい。
「なんだかいつものレイお姉様とは違って新鮮ですね。
かっこいいです」
かっこいい?
乗馬ができるスタイルだからだろうか?
その後サラ様と歓談している最中にエリザベス様も戻り、3人でお茶をした。
エリザベス様とサラ様の仲睦まじい様子を眺める。
わー、目の保養、
美しい姉妹。
うっとり眺めていると、エリザベス様とサラ様と目が合う。
「レイお姉様、どうされました?」
「いや、可愛いなと思って」
私は思ったままを口にした。
「お、お姉様、私少し用事があって、これにて失礼致します」
エリザベス様が席を立って足早に部屋を出て行かれた。侍女数人も急いで後を追う。
あれ?
私、また何か不調法なことをしたかな?
残っているエリザベス様の侍女達を見ると、皆なんだか顔が赤い。数人が私から目を逸らしている。エリザベス様の侍女頭を見ると、私の方を向いて顔を横に振っていた。私はまた何かダメな事をしたようだ。
「レイお姉様はいつもと別人のようですね。
私はどちらのお姉様も好きですよ」
サラ様が笑顔が向けて下さった。
5歳にフォローされる私は、何をしてしまったのだろうか?
✳︎
就寝前に本を読んでいたらいたら、ユリウス様が部屋に来た。
「レイ、顔を見せて」
私は驚いて瞬いた。
「ユリウス様、どうされました?」
ユリウス様はじっと見つめてくる。
「今日のレイは別人の様だったと報告があった」
「別人ですか?」
「気のせいならいい」
ユリウス様はため息を吐いた。
また何が心配させたのだろう。
今後に備えて、公爵邸を確認して回っていたのが不味かっただろうか?
しかし今のうちに自分のいる周りを把握しておかないと、不測の事態に備えられないし。
いや、今優先すべきは目の前の人のことだろう。
私はユリウス様を見上げて微笑む。
「……別人かどうか、試してみますか?」
私は敢えて試す様な言い方をする。
すると彼は少し驚いて、面白そうに言った。
「へえ、挑発する時点でいつもと違うかもな」
ユリウス様に引き寄せられる。
「どんなレイも好きだけどね」
「光栄です」
これで彼の心配がなくなってくれるといいな。
本当の姿を見せる魔法まで見届けて頂いた方々、いつもありがとうございます。
最後の話に行く前に、次に繋がる話をいくつか投稿したいと思っています。お付き合い頂ければ幸いです。
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