現実逃避
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
あー、もう頭が働かない。
甘やかされて、考えることが彼のことばかりになってしまっている。
でも、いつまで現実逃避するわけにはいかない。
心配かけた家族や家令にも連絡しないと。
あと王宮でやらかしたことの後始末をつけなければいけない。
私個人のことはともかく、ユリウス様の職務に支障が出る事は避けないと。
そのためにはライオール殿下と、
秘書官を辞したとはいえミア様にお詫びに行くべきだろう。
あと王太子殿下にもご配慮頂いた。
以前、劇場でお言葉を交わした王太子殿下を思い出す。
物腰が柔らかい様子だが、もちろんそれだけではない。
状況把握が早かった。
兄のことがあったとはいえ、殿上人に近付きすぎた。
そして私も目立ち過ぎたようだ。
さらに王宮で部屋を訪ねてきた王太子殿下を思い出す。
記憶のない私を預かるという提案をされた時だ。
あれは本当に緊張した。
あの場にユリウス様がいなければ、逃げ出していただろう。
あの頃の私は感覚が鋭かった。
だから僅かな違和感を拾うことができた。
そうやって身を守ってきたから。
しかしながら、兄も何という方に忠誠を誓っているのか。
兄は、全くもって天性の才がある。
自分の才能を120%活かせる主君を選ぶなんて。
できればユリウス様にとって、王太子殿下は「幼なじみのライオール殿下の良き兄」のままでいてほしかった。
いや、ユリウス様も既に気付いているかもしれない。
ゆくゆくは王宮の中枢にいかなければならない人だもの。そうなれば否が応でも気付くはず。
王太子殿下の王太子たる所以を。
彼は昭国のヤン殿下とは違うタイプの王の器だ。
そして王太子殿下は何か気付いている。
私を保護しようとしたのは、私の身に危険が迫っている?
いや、差し迫ったものはないと思われる。
落ち着いて。
私は今まで通り、降りかかる火の粉を振り払うだけ。
それに王太子殿下に意図があれば、そして私に利用価値があれば、向こうから接触してくるはず。
「レイ、何をしている?」
いきなり声をかけられて、思考を切る。
見上げると、端正な顔があった。
銀色の髪が濡れている。
ああ、湯から上がったのか。
アイスブルーの瞳に心配の色が浮かぶ。
いけない、ボーっとしていたかも。
「ユリウス様、少し服を直していまして」
「服?」
「緩い部分を少し調整していまして」
「ああ、レイは痩せたからな」
「!」
「大方『昔のレイ』は王宮での食事が喉を通らなかったのだろう」
「!!」
み、見透かされている。
気付かれていたなんて恥ずかし過ぎる。
「な、なんで痩せたとかわかるんですか?」
「それは抱き心地とか」
「!!?」
動揺して、危うく針で指を刺すところだった。針仕事はもう止めよう。
私は平常心が保てるうちに、手早く裁縫箱を片付ける。
「それって、私が太った時も分かるってことですよね?」
私は抗議の視線を向ける。
「もう少しふくよかになってもいいと思うぞ。
公爵邸の料理人達がレイを太らそうと画策しているくらいだし」
「!」
「あと侍女達がレイを着飾りたいから早く連れ帰れと、公爵邸から要請があった。昭国にいる母上からレイ用の衣装が届いたそうだ」
「!!」
「もう公爵邸に戻るか?」
「……も、もう少し別宅にいたいです」
「どうして?」
「ゆ、ユリウス様と一緒にゆっくりしたいからです」
「仕方ない、そういうことにしておこう」
彼は満足気に笑って私を引き寄せる。
私はあっさりユリウス様の腕に捕らえられてしまう。
あー、もう頭が働かない。
また甘やかされて、考えることが彼のことばかりになってしまっている。
そしてまた現実逃避……。
本当の姿を見せる魔法まで見届けて頂いた方々、いつもありがとうございます。
最後の話に行く前に、次に繋がる話をいくつか投稿したいと思っています。お付き合い頂ければ幸いです。
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