翌日(ユリウス視点)
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
目が覚めると、見慣れた顔があった。
黒い艶やかな髪がシーツに流れている。
まつ毛が長い、整った顔だ。
よく寝ている様で、いつもより幼く見える。
あれ?
ここは公爵邸別宅か。
なんだか頭がボーッとしている。
最近寝不足が続いていたが、久しぶりにぐっすり眠れたような気がする。
ああ、そうだ。
彼女を取り戻したからだ。
一時はどうなるかと思った。
レイが倒れてから、たかだか十数日しか経っていない。
しかしなんだか、とても長かったような気がする。
彼女が俺を忘れてしまったことは悲しかったが、今となれば彼女のことを色々と知れて良かったと思う。
たぶんこんなことがなければ、ずっと知ることは出来なかっただろう。
それとも、彼女はいつかは話してくれただろうか?
安らかな寝息を立てて、腕の中で眠る彼女を見て満たされた気持ちになった。
やっと取り戻したからだ。
今回は本当に逃げられるところだった。
逃げられないように、今のうちに居場所がわかる術をかけておこうか?
彼女の手を取り、口付ける。
すると彼女がパチっと目を覚ました。
「レイ、起きた?」
「……ユリウス様、魔術の気配がします」
そういうと彼女はスルリと腕の中から抜け出し、寝台の端に移動して辺りを見回した。
猫みたいにしなやかな動きだ。
「あー、俺がレイに居場所がわかる術をかけた」
レイがキョトンとこちらを見ている。
初めて見るリアクションで新鮮だ。
「これが居場所のわかる術の気配ですか!
初めて感知できました」
なんだか嬉しそうに言っている。
ふむ、
魔法が解けて戻ったと思ったが、気配が鋭いままなのか。
彼女は笑顔のまま、ハタと止まる。
その後急に顔が赤くなり、俺から目を逸らした。
「ゆ、ユリウス様、あの、色々申し訳ありませんでした」
「?」
「その、記憶がなかったとはいえ、失礼なことばかり」
「……」
「色々ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
「レイのせいではない」
「ですが、その」
「悪いと思っているならここに来て」
彼女はおずおずと近付いてくる。
俺は待てなくなって、彼女の腕を引いた。
「ユリウス様っ、んっ」
彼女の唇を奪って、とりあえずこれ以上謝罪できないようにしておく。
ようやく離してあげられた時には、彼女は少しぐったりしていた。これなら猫みたいにスルリと抜け出されないだろう。
「レイがずっと一緒にいてくれるなら、いいよ」
「私もユリウス様とずっと一緒にいたいです」
穏やかな笑顔で言われて、とても嬉しい。
なんとも満たされた気持ちになって、また触れたくなってしまう。
身体を引き寄せようとしたら、レイに抵抗された。
「ユリウス様、あの、私、食事の準備を手伝ってきますので」
「使用人に任せてある」
「では……とりあえず着替えてきます」
「却下、顔が赤いからまだ寝ていて」
「これはその、病気ではなくてですね、その」
レイの頬に手を当てると、ビクっと身体が震えた。
「その、今は感覚が、その……なので、これ以上の触れ合いは……」
「へえ、感覚が鋭いのも考えものだな。
まあ、手加減できないけど」
「っ、待って」
「ずっと一緒にいてくれるのだろう?」
今度は俺のことを忘れない様に、とりあえず身体に覚えてさせておくことにしよう。
本当の姿を見せる魔法まで見届けて頂いた方々、いつもありがとうございます。
最後の話に行く前に、次に繋がる話をいくつか投稿したいと思っています。お付き合い頂ければ幸いです。
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