翌日(レイ視点)
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
目が覚めると、見慣れた顔があった。
銀色の柔らかな髪と、整った顔だ。
よく寝ている様で、いつもより幼く見える。
あれ?
私はどうしてここにいるんだっけ?
なんだか頭がボーッとしている。
周りを見渡す。
ここはクローディア公爵家の別宅だ。
下級官吏の時には、ここから王宮に通わせてもらった。
私は昨日までは何をしていたんだっけ?
確か公爵邸にいて、えっと、秘書官として王宮に上がっていたような……。
いや、違う。
そうだ、タタ王女が魔法を使われて、私はなんとかしようとして。
そして、私はあの頃の自分になってて……。
私とは縁のない方々に囲まれて、帰れなくて、心を無にして過ごしていて……。
でもお兄様についていた蜘蛛をみたら、居ても立っても居られなくて……。
わー!色々やらかしている。
ああー‼︎ 私はなんてことを。
特にユリウス様には顔向けできない。
ふと横を向くと、その当人がいた。
よく寝ている。
無防備な寝顔だ。
私は居た堪れなくて、寝台から下りようとした。
しかし身体が動かない。
ユリウス様の腕があるからだ。
私はなんとか腕から抜け出そうとしたが、意外にガッチリ囲われていて抜け出せない。
ユリウス様を起こさない様に腕を外そうとしたが、これが全く外れない。
力の抜けた状態の腕は結構重い。
ユリウス様はスラっとしているが、そこは男性なので、当然腕も逞しい。
あー、バルコニーから落ちた私を受け止めて頂いたこともあったな。
私はやらかし過ぎだろう。
わー、やはり居た堪れない。
一人で顔を覆って反省する。
待て待て、落ち着け、私。
いずれこの状態から抜け出すとしても
ユリウス様を起こしてはいけない。
昨晩彼は「今までは安眠出来なかった」って言ってたし。
それって十中八九、私のせいだよね。
ユリウス様はただでさえ多忙な上、私が心労までかけた挙句、安眠妨害するわけにはいかない。
本当は寝台でゆったり眠って頂きたいのだけど……。
とりあえず静かにここを抜け出すように、再度トライする。
しかしまたもや失敗。
体力だけを消費して、ぐったりする。
人は時に諦めも肝要。
ユリウス様の安眠を優先して、自分は大人しく腕の中にいることにする。
少し見上げるようにして、ユリウス様の顔を見る。
綺麗な人だと思う。
今は閉じられている瞳も、とても綺麗なのだ。
そしてとても優しい。
巻き込みたくなかったとはいえ、ユリウス様からも逃げようとした私に帰る場所を与えてくれる、優しい人なのだ。
いつも心配かけてばかりなのに。
両親も死の間際まで、誰かの身を案じていた。
連れて行かれた子供達のことを、
これからの領民や家人のことを、
一人遺される私を。
父と母らしいと思う。
お人好しで、優しいあの人達らしい最期。
予想通りだったけど、確かめたかった。
どうして死にゆく自分の身よりも、他人を案じられるのか?
いつも自分のことばかりな私とは違う。
だからその心の有り様を『綺麗』なのだと思い、魔法を使ってでも、それを見たかった。
そう、私の目の前の人も同じだ。
私はユリウス様を見る。
どうして他人を真に想い、身を賭して守ろうとできるのか?
現実はこんなにも……なのに。
その『綺麗』なものに、私は救われる。
まだ世界にはこんなに綺麗なものがあるのだと、思わせてくれる。
もう少し生きてみようと、思わせてくれる。
彼を手離せないのは、たぶん私の方なのだ。
ユリウス様に少しだけくっついて、目を閉じることにする。
近くにいるとふわふわと心地よくなって、安心してしまう。
また、うとうとしてきてしまう。
たくさんのものを失って、新しく得たもの。
この居場所が当たり前だと思える日が、いつか来るだろうか?
本当の姿を見せる魔法まで見届けて頂いた方々、いつもありがとうございます。
最後の話に行く前に、次に繋がる話をいくつか投稿したいと思っています。お付き合い頂ければ幸いです。
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