特使3
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私は正式に昭国特使付きの官吏になることが決まり、明日から任務に就くことになった。
急なことなので、今日中に業務の引き継ぎをしておかなければならない。
特使付き官吏の引き継ぎと、下級官吏業務の引き継ぎが終わったので、王立研究所に行くことにする。
「おっ!嬢ちゃん久しぶりだな。官吏の制服が良く似合ってるじゃねーか」
王宮を出た私は、傭兵組合から出てくる知り合いと偶然会った。
「ジーク隊長お久しぶりです。これから任務ですか?」
「ああ、急な依頼で港の警護にな。今、王都に特使が来てるだろう?そういう時期は不審な船も増えるからな」
「知りませんでした。不審な船は密航者のことですか?」
「それもあるが、大体、密航者は取り締まれるからな。密輸品の方が大変らしい。だから港の管理者が出払って警護が手薄になる」
「そうでしたか。くれぐれもお気をつけて」
「おうよ。嬢ちゃんも頑張れよ」
ジーク隊長はいつも変わらない。
私にとっては頼れる小父さんだ。
今回も怪我なく帰ってきてほしいと思う。
私はそのまま王立研究所に向かう。
ニール教授に2週間ほどプロジェクトを外れる旨を報告する。
「セレス君が厄介ごとに巻き込まれているのはわかった。どうせ特使が来ている間は、王宮側も動けないだろうから気にすることはない。こちらは予定通り進めておくよ」
「ありがとうございます。孤児院からの経過報告書と、商会から薬草の販路の件で報告が上がっているものをまとめてあります。今後の検討にお使い下さい」
「相変わらず仕事が早いな。表彰式の前に、こんな風に明らかな成果を出せる研究なんて、なかなかない」
「ニール教授のおかげです。学生の時分に遺伝子学の権威にご指導頂けたことは幸運でした」
「君も世辞を言う様になったか。私も君の発想に刺激されてね、研究所に戻って良かったよ。今は研究が楽しいからな」
「教授の研究がそのままこのプロジェクトの成果に繋がりますから、存分に夢中になって下さい」
「君、官吏っぽいことを言うようになったな。官吏を辞めたらうちの研究室に来るといい。秘書として採用しよう」
ニール教授も冗談を言うのだな、と思った。
学園にいた頃は難しい顔をされていたが、今は生き生きしているように見える。
教授にとって、本来の場所に戻られたからだろうか?
「光栄です。困った時はよろしくお願いします」
王都の街並みを見ながら、王宮に戻る。
ライオール殿下の成人を祝う年だからか王都はお祝いムードだ。少し前から各国の特使が来ているから尚更なのだろう。
我が国は長らく戦争をしていない。
国内が安定していることも大きいが、外交によって民を守っているのだ。
だから特使団の受け入れは重要な国の行事だ。
まさか自分が現場の最前線に出ることになるとは思わなかった。
特使と向かい合う時、私は国を代表して立たなければならない。そこに17歳の小娘であることを理由に許される余地はないのだ。
実力や経験がある上級官吏でも出来なかったことが私にできるとは思えないが、もはや後退することはできない。
義両親や宰相閣下、ユリウス様の心配をよそに私が王宮にあがり、自分のしたいことを勝手にした結果なのだから。
残り少ない時間の中で少しでも特使と信頼を築けたら、この状況を逆転できるかもしれないな、と思った。
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