本当の姿を見せる魔法24 秘めた思い
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「レイは……ずっと死にたかったのだね」
俺はずっと引っかかっていたことを言った。
いつも自分に無頓着で、平気で自分の身を危険に晒したりする彼女の、無意識にある意思なのだろう。
死にたいと願いながら、頑張って生きようとする精神。
だから常に矛盾を抱えている、
自分に内包して隠している、
だからアンバランス、
だから危うい、
俺はそこに惹かれて、同時に
レイがいなくなることに不安を感じていたんだ。
「ええ」
先程の天真爛漫な表情は曇り、彼女は諦めた様に肩を落とした。
「死にたいほど、この世界は嫌いだった?」
彼女はしばらく黙った。
既にそれが答えだろう。
それでもゆっくりと口を開いた。
「見たくないもの、知りたくないことがたくさんありました。
辛い現実を捨てて、私も父と母の元に行けたらどんなに良かったか」
「……危ない目にも遭ったと聞いた」
「非力な少女なら御し易いと思われたのでしょう。
相手には、こちらの意思や都合はお構いなしですから」
嗚呼、彼女も知っているのだ。
俺が幼い頃に他人に感じていた
理不尽、不整合、不条理を。
「でも周りの事を考えると自分勝手に死ねなかった。
レイは優しい」
彼女は悲しそうに首を振る。
「優しいのではない、弱かっただけです。
自ら命を投げ出すことで、死後両親と会えなくなるのがこわかった。
全ては自分のためです」
以前の彼女が「弱い自分を隠しせる」と言っていた意味が、やっとわかったような気がする。
「気休めかもしれないけど、心無い貴族ばかりではないと思う。
だから自分が貴族であることを責めることはない」
「どうでしょうか?私も本質は同じです。
自分の守りたいものの為には、他を顧みない」
「それは平民であってもそうだろう?」
「ええ。だから生きるのが苦痛でした」
彼女は辛そうに顔を歪めた。
「……今も?」
「『今の私』はそうです。
一度焼き付いた孤独や嫌悪感は早々忘れられない。
死を願う気持ちも」
彼女は耐える様に自分を抱える。
こうやって何年も耐えてきたのだと思うと、俺は言葉が出なかった。
彼女は様々な感情を呑み込む様に、ゆっくり息を吐いた。
「でも『以前の私』は、生きる事を選んだのですね。
結局人を嫌いにならなかった。
家族や家人達以外にも、好きになれた人ができたのですね……」
「レイは誰とでも仲良くなれる」
「それは……父と母のようになろうと、努力しているだけです。
自分も誰かの役に立つなら、生きていていいと思えるので」
「役に立たなくても、生きているだけでいいと思っている人がいる。
もちろん俺も、レイに生きてほしい」
「そう言ってもらえる程に『以前の私』は頑張ったのですね」
「御両親の最期の言葉を聞いた今はどう?
心境に変化はあった?」
その言葉を聞いた彼女は、ゆっくり目を閉じる。
「ええ、貴方になら託しても良いと思いました」
彼女の顔が穏やかになり、初めて微笑んだ。
貴族の笑顔ではない、18歳の表情で。
「それってどういう意味?」
「『以前の私』が最後にかけた魔法は、自分と他人を守ろうとしたものでした。
使い慣れていない魔法でした。
今までは自分を守る魔法なんて、必要なかったから。
心のどこかで死を願うから、自分を守る必要がなかったのです。
でも『以前の私』は初めて自分の身を守るとともに、誰かに心配させないように、生きようとしたのです」
「誰かって、もしかして……?」
彼女は微笑んだままだ。
「そろそろ時間です。
後のことはお願いしてもよろしいですか?」
彼女は微笑んだまま、ゆっくりと後ろに下がり、木に背を預ける。
「今のレイは消えるつもり?」
「かかっていた魔法を解除しただけです。
私は消えるでしょうが、私が抱いているこの気持ちは簡単には消えないでしょう。
だから『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』をよろしくお願いします」
「どんなレイも好きだよ」
「ありがとうございます。
短い間でしたが、貴方と話すのは楽しかった」
彼女は笑った。
花が咲いたよう感じた。
とても綺麗だと思った。
「さようなら、ユリウス様」
最期の言葉が夜に溶ける。
俺の名前を呼んでくれたのが嬉しくて、少し切ない気持ちになった。
レイの身体がぐらりと揺れる。
俺は咄嗟に抱き留めた。
彼女は眠っている様だ。
久しぶりに彼女を抱き締めて、やはり華奢だと思った。
レイが記憶をなくしてから11日目の夜、やっと彼女をこの手に取り戻すことができた。
彼女の意識はなかったが、俺はあまり心配していなかった。
いずれ目を覚ますのはわかっていたから。
ここまでお付き合い頂いた皆様、いつもありがとうございます。本当の姿を見せる魔法もあと1話になります。
彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。
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