本当の姿を見せる魔法23
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「ならば、本気で逃げるしかないようですね」
レイが淑女の微笑みで優雅に答える。
こちらを試すような、深い緑の瞳。
「……やってみればいい」
俺も表情を抑えて微笑む。
まるで格上の相手に対する緊張感、それを気取られない様に慎重に取り繕う。
しばらくお互い見合う。
互いに次の手を読んで、対応策を探している状態。
ここで隙は見せられない。
俺のアドバンテージは魔術が使えることくらいだろう。
対してレイには魔法がある。
彼女が俺の能力をどの程度評価しているかで、次の動きが変わってくる。
もし俺が彼女よりも強いと評価されているならば、彼女は軽々に動かないだろう。
その場合はこちらの隙を突いてくるか、俺を納得させるように仕向けるか……。
王宮では動揺して彼女の術にかかってしまったが、同じ手が通用しないことは分かっているはず。
駆け引きにおいては、相手に自分のカードを悟らせない。こちらが強いカードを持っているとみせかければ、相手から折れる場合もある。
できれば彼女に、ここで諦めてほしいのだが。
すると、彼女は軽く目を閉じた。
雰囲気がふっと柔らかくなる。
彼女は盛大なため息をついて、徐に言った。
「あーあ、本気で逃げようと思っているのに、
これは逃げきれるかなぁ?」
一気に纏う雰囲気が変わる。
話し方は9歳の少女みたいだ。
初めて見る姿に俺は困惑した。
だが、たぶんこれが両親と共に在ったレイの姿なのだろう。
貴族のような作り物感のない、屈託のない表情に、目が惹きつけられる。
ただ立って居るだけなのに存在感がある。
今までは目立たないように、意識的にコントロールしていたのだろう。
「俺は魔術師だから、レイのことをどこまでも追いかけるよ」
彼女は俺の言葉に目を丸くして、ふっと笑った。
表情が豊かで、見ていて楽しい。
「爽やかそうな顔でサラッと怖いことを言うね。
貴方は優秀な魔術師、私ごときではすぐに追いつかれてしまいそう」
彼女は軽く肩をすくめて言う。
「でもそれを試そうとしてる?」
「まあ、何事もやってみないとわからないし」
「俺が捕まえたら、レイのことを好きにしてもいい?」
「例えば?」
「家に連れて帰って、外に出してあげないとか」
「それはこわい。
『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』は、とんでもない人に執着されている」
彼女はまるで自分のことではない言い方をするので、俺は少し可笑しくなる。
彼女は試すような瞳でこちらを見ている。
「『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』は貴族の振りはできても、中身は程遠い。
それでもいいの?」
「ああ、もちろん」
「これは重症だ。
他に素敵なご令嬢が星の数程いるというのに」
「俺は祖父に似て、一途だから」
「亡きお祖父様も心配だと思うよ」
「祖父はレイなら良いと言う」
「婚約者としては反対すると思うけど」
「うちは実力があれば問題ないから」
「私には実力がない」
「王宮魔術師を撃退しておいて、よく言う」
「あれは相手が、私を殺す気がなかったから。
そもそも私が狙われる理由もわからない。
そんな厄介事をクローディア家に持ち込むつもり?」
「ああ。
レイを守る。
俺と、クローディア家が」
「どうしてそこまで……」
「レイが好きだから」
レイが困った顔をする。
困惑している様子が伝わる。
「貴方は私に対して、終始手加減していた。
駆け引きをするにしても、貴方の方が上のはず。
なぜ私の好きにさせたの?」
「惚れた弱みってやつ」
「この先、貴方は苦労するよ。
それでも一緒にいるつもり?」
「ああ」
「考え直すつもりは?」
「ない。ずっと一緒にいるから安心して」
「執着している方が言うと、こちらは安心できないと思うけど」
「レイを死なせないから、安心して」
俺はずっと考えていたことを言った。
彼女の整った顔に僅かに驚きが滲む。
深い緑の瞳が揺らぐ。
「レイは……ずっと死にたかったのだね」
ここまでお付き合い頂いた皆様、いつもありがとうございます。本当の姿を見せる魔法もあと2話になります。
彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。
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