本当の姿を見せる魔法22
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「それで話とは?」
レイが尋ねる。
結った長い黒髪が、艶々と輝く。
整った顔は人形の様だが、深い緑の瞳が射抜く様にこちらを見ている。
俺と一緒にいた以前のレイとはまるで別人、王宮で見た彼女とも別人。
今までは目立たないように抑えていたものがあったのだろう。今はそれがないようだ。
今のレイは、例えるなら抜き身の刃みたいだ。
切れ味の鋭い、危うい魅力。
使い方次第で、自分も他人も傷付けてしまう。
しかしここで諦めるわけにはいかない。
「レイは亡き御両親の最期の言葉を聞きたかったのだろう?
だから王族付き魔法士から、魔法を習った」
「……どうしてそう思うのです?」
「レイは攫われた子供達を見つけ出そうとしていた。またセレス領と家門を守ろうとした。それらは全て『以前のレイ』によって叶えられた。
ならば目的を失った『今のレイ』が次にすることは何か、と考えた」
「……」
「俺の祖父は亡くなった祖母に会いたかった。
そのために魔法の研究をした。
そして祖母の最期の言葉を聞くことができたと言っていた。
レイが見たいという綺麗なものは『亡き御両親の想い』かな?」
「クローディア公爵子息は切れ者と伺いました。
私の思考をある程度読まれて、状況から判断されても仕方ないですね」
「レイに褒めてもらえて嬉しいよ。
それで目的は果たせたか?」
「ええ」
「そして自分が狙われているから王宮から去った。
家族や周りを巻き込まないように、王都からも領地からも離れようとしている。
そして俺からも」
「……捕縛した魔術師が何か吐きましたか?」
「いや、今も黙秘しているそうだ」
「では私が狙われていたか断定はできませんね」
そうは言っても、彼女がそう思っていないことは明白だった。
「……これからどうするつもり?」
「わかりません」
彼女は目を伏せる。
「俺と一緒に帰ろう」
レイは僅かに躊躇した。
大人びた口調だが中身は9歳、時々感情の揺れが表にでる。
「私は『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』ではありません」
「レイはレイだよ。
『今のレイ』も、『以前のレイ』も」
彼女の顔が曇る。
その理由も予想できた。
「『レイ』と呼ばれるのは嫌?」
「……貴方に呼ばれるのは不思議と嫌ではありません」
彼女は初めて俺から目を逸らした。
「レイの『本当の姿』にそう言ってもらえるなんて、とても嬉しいよ」
彼女は深い緑の瞳をこちらに向ける。
しばらくじっと俺を眺めてポツリと呟く。
「貴方は本当に私のことが好きなのですね」
「ああ、愛している」
「『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』も貴方を大切に思っていたと思います。
だから貴方を巻き込みたくはないのです。
これは私の意思でもあります。
クローディア公爵子息、どうか婚約を破棄して下さい」
「嫌だ」
「どうしても?」
「どうしても」
「ならば、本気で逃げるしかないようですね」
「……やってみればいい」
ここまでお付き合い頂いた皆様、いつもありがとうございます。本当の姿を見せる魔法もあと3話になります。
彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。
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