本当の姿を見せる魔法21
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「やはりここにいた」
レイは地面に手を付いて、魔法陣を展開していた。
辺りは暗闇に包まれている。
セレス領は灯りが少ないため、俺は魔法陣の仄かな明かりを頼りに、この場所を探し当てた。
レイの髪は黒く、闇に溶けている。
ローブを身につけ、剣を差していた。
以前見たことのある、まさに旅支度の格好だ。
「良くここがわかりましたね」
魔法陣を消してレイが立ち上がる。
「ここは、前子爵夫妻が命を落とされた場所だろう?
確か、今くらいの時間だったそうだな」
「『以前の私』は、貴方にそんなことまで教えていたのですか?」
「いや、自分で調べた。
彼女は俺にも、誰にも言わない」
「……」
レイは天を見上げて、息を吐く様に言う。
「言わないのではない。
言えないのですよ」
彼女は私を真っ直ぐに見た。
暗闇の中に浮かぶ、彼女の挑むような意思のこもった緑色の瞳が美しいと思う。
「それで?
私を捕えに来たのですか?」
「いや、話をしに来た」
「……そうですか。
場所を変えましょう」
パン
彼女は両手を合わせて鳴らす。
俺と彼女は一瞬で森の中に転移した。
ここは確か、以前も彼女と話したことのある場所だ。
確かセレス領北部の森、隣のマーレ領に抜ける道だった。
しかも魔法陣もなく2人同時転移なんて、かなりの高等テクニックだ。
これが魔法士の授業の成果なのだろうか?
レイは無言で森の奥に歩く。
少し開けた場所に着き、パチンと指を鳴らした。
辺りが一瞬明るくなるが、すぐに暗闇が支配する。
すると足元や木の根に生えているキノコがゆっくりと光だした。
「ランプダケというキノコです。
光源を与えると光を放つのです。
綺麗でしょう?」
キノコのおかげで、この辺りだけ明るい。
レイの姿が闇に浮かび上がる様に見える。
姿は18歳の女性だが、服装も相まって男性の様にも見える。
おそらくその雰囲気のせいだろう。
人を近付けさせない、硬質な輝きを放つ。
中身が9歳とは思えない大人びた仕草。
表情を表に出さない整った顔は、まるで人形の様だ。
しかもキノコの知識なんて、普通の令嬢は持ち合わせていないだろう。
知能が高く、底しれない知識を有し、我が国では貴重な魔法の使い手となってしまった彼女を前にして、鳥肌が立つ。
かつてレイとセレス領で初めて会った時には、こちらが仕掛けるアドバンテージがあった。
あの時だって逃げられるかもしれないギリギリの状況だった。
しかし今の彼女は完全に臨戦態勢。
家族や家門に類が及ばないように手を打ってから、ここに立っている。
柵のない彼女は本気で行動できるのだ。
彼女に本気で逃げられたら、俺は捕まえられるのか?
ここまでお付き合い頂いた皆様、いつもありがとうございます。本当の姿を見せる魔法もあと4話になります。
彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。
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