本当の姿を見せる魔法20
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
俺は転移魔法で王都のセレス家に飛ぶ。
セレス伯爵が慌てて対応してくれた。
レイは1時間くらい前にセレス家に来て「しばらく領地に行く」と言って出て行ったらしい。
セレス伯爵がレイに王宮での様子を聞いたところ「ライオール殿下に許可頂いて王宮を辞したので、何も心配いらない」と言っていたそうだ。
家族にはいつも通りに見える様に振る舞っていたらしい。
どんな時でも、レイは家族に心配をかけない様にしている。自分の大事にするものに対して、本当にブレない。
だから俺もセレス伯爵に、王宮でのことは伝えなかった。
レイは最後に、セレス伯爵に「しばらく好きにさせてほしい」と告げたという。
✳︎
俺はさらに転移魔法でセレス領に飛ぶ。
家令のモランによると、レイが突然来て30分くらい前に出て行ったらしい。
行き先は告げず、また屋敷には戻らないと言ったそうだ。
モランにレイの様子を聞いたところ「屋敷に着いてすぐに『奥の間』に行った」とのことだった。
奥の間は継承の儀を行った部屋だ。
セレス伯爵家に関するものや家宝がある。
どうしてそこに?
モランはレイの様子が9歳のままだと気付いていたが、止めなかったそうだ。
おそらく、止められなかった。
幼い頃から彼女を見守ってきた者として、思うところがあるのだろう。
今の彼女に目的があるとしたら、初めて自分のために動いているからだ。
今までは誰かのために動いていた彼女が、初めて自分のために『目的』としたもの。
そこに彼女は向かっている。
俺は領主館を出る前にモランに尋ねた。
「モラン、『レイ』という呼び名は特別なのか?」
「お嬢様にとっては特別かと存じます。
亡き御両親が唯一自らに遺されたものですから。
御家族以外に呼び名を許したのはクローディア公爵子息だけです」
そうだったのか。
彼女には不意打ちの様な形で呼び名を許してもらったから、最初は納得しているとは思っていなかった。
それでも近付きたかったから。
一緒にいる時間が長くなるにつれ、彼女がそれを自然に受け入れてくれたのは嬉しかった。
「モラン、ありがとう。
レイを迎えに行って来る」
「クローディア公爵子息、お嬢様をよろしくお願い致します」
今はレイの目的がわからないため、俺はとりあえず彼女が行きそうなところを探した。
教会、墓地、眺望の丘、しかしどこにも居ない。
既に日が暮れている。
いつもなら彼女に居場所がわかる術をかけていたが、以前かけた術はもう解けてしまっていた。
この術は相手に触れないと発動できない。
それだけ長い間、レイに触れていないということだった。
レイは「屋敷に戻らない」と言い残したので、既に領外に出た可能性もある。
だが、俺にはまだ彼女がセレス領に居る気がした。
やはり彼女の目的がわからないと、彼女には辿り着けない。
彼女の『今の目的』は何だ?
彼女は何をしようとしている?
俺は記憶を失ったレイを思い浮かべる。
貴族が嫌いで、
信頼する人以外は側に置かない、
当初の目的は果たされている状況、
家族の身を案じているのに、
自分が狙われているのに放置している、
魔法を学ぶ、
綺麗なものがみたいと言う、
祖父のことを話す、
婚約を破棄する、
継承の儀をした『奥の部屋』行く、
そして屋敷に戻らないと言う……。
領内で良く行くところには居ないとなると、レイの行き先はおそらく……。
ここまでお付き合い頂いた皆様、いつもありがとうございます。本当の姿を見せる魔法もあと5話になります。
彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。
評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。
ありがとうございます^_^