本当の姿を見せる魔法18
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
あっという間に3日経った。
魔法士とレイの授業が終わる頃には、国同士の賠償問題も決着がつき、その日の夕方にタタ王女は魔法士と共に帰国した。
「セレス嬢、王族付き魔法士からの授業はどうだった?魔法の解除はできそうか?」
タタ王女を見送った後、レイの部屋でライオール殿下が尋ねた。
レイは少し考える様な素ぶりを見せていたが「殿下に折り入って話がある」と言い、2人で話したいと願い出た。
俺とロバートは廊下で待機する。
しばらくして殿下が部屋から出てくる。
難しい顔をしていた。
「ユリウス、セレス嬢が話があるそうだ」
殿下と入れ替わりに俺が部屋に入る。
レイが扉を閉めた。
「クローディア公爵子息、お話があります。
私との婚約を破棄して頂けないでしょうか?」
突然のことに、俺は言葉が出なかった。
「……なぜ?」
レイは真っ直ぐに俺を見ている。
深い緑の瞳には明確な意思があった。
「私では自分にかけられた魔法を解除できません。
そのため、失われた記憶はこの先戻らないでしょう。
だから婚約を破棄して頂きたいのです」
俺は言葉が出なかった。
レイはそんな俺の様子を見て、言葉を続ける。
「私は記憶がないので、他の人に色々聞きました。
家柄の劣る私が貴方と婚約できたのは、クローディア公爵閣下に私の王宮での仕事が認められたからだと。
しかしながらその時の記憶は失われて、今後お役に立つことも出来ません。
また今の私にはクローディア公爵子息との記憶もありませんので」
「それは違う。
俺はレイが王宮に入る前から婚約したかった。
たとえ俺とのことを覚えていなくても、これから一緒にいて、だんだんと覚えればいい」
「ですが、今の私は貴方に相応しい身分ではありません」
この言葉は、以前もレイから言われたことがあった。
それを思い出して重ねてしまい、冷静になれない。
「俺はレイを身分で選んだのではない!」
俺は思わず声を荒らげた。
感情を抑えずに話すなんて、初めてかも知れない。
それ程に余裕がなかった。
「しばらく一緒に行動して分かったでしょう?
私は『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』ではないのです」
レイは悲しそうに俺を見る。
「『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』は貴方のことを大切にしていたと思います。
貴方も彼女のことを大切にしていたのは分かっています。
今の私も、貴方は優しい人だと思います。
ずっと私のことを案じている。
本当に私には勿体無い方です。
だから貴方には、私以外の誰かと幸せになってほしいのです」
彼女が心から言ってくれているのが伝わってきた。
だからといって承知することは到底できない。
「俺の幸せはレイと一緒にいることだ」
レイは一瞬辛そうな顔をしたが、すぐに表情を消した。
そこには意思のある人形の様な彼女がいた。
「重ねて申し上げますが、私は『貴方の知っているセレス伯爵令嬢』ではありません。
『レイ』と呼ぶ事を許して、誰かを側に置くなんて、私にはできない」
「レイ」
「さようなら、クローディア公爵子息。
貴方の幸せを心からお祈りしております」
彼女はパチンと指を鳴らした。
急に世界が暗転した。
そして彼女は姿を消した。
ここまでお付き合い頂いた方々、いつもありがとうございます。本当の姿を見せる魔法もあと7話になります。
彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。
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