本当の姿を見せる魔法17
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
レイの希望は通り、翌日から3日間、王族付き魔法士がレイに魔法の基礎を教えることになった。
王宮内で魔法を使うため、王宮魔術師を監視につける。念の為ビヴィ公爵家門から遠い家門の出身の魔術師を選んだ。
レイの婚約者として、また魔術師として俺も同席したかったが、タタ王女が起こした件の賠償問題を早期に解決するために忙殺されていた。
王宮魔術師から報告が上がってくるが、レイは本当に基礎を教えてもらっているようだった。
しかも一教えれば十わかるような秀才で、王族付き魔法士も感心しているという。
その日の夕方、レイの部屋を訪ねた。
「ご機嫌よう、クローディア公爵子息」
「レイ、魔法の授業はどうだった?」
「はい。楽しかったです」
「楽しい?」
「ええ、自分にない知見を知るのは楽しいです」
「そう」
今日のレイは意思のある人形の様だった。
もちろん生気がない様子よりも良いのだが、俺は落ち着かなかった。
たぶん、彼女は目的があって動いている。
「レイ、なぜ魔法を習おうと思った?」
「自分にかかった魔法を自分で解くためですよ」
「基礎を習うだけでは難しいように思うが?」
「初心者なので基礎で手一杯です」
「転移魔法が使えるのを初心者とはいわないと思うが?」
「……」
彼女は僅かに目を見開いた。
そして俺の目を見て言う。
「『以前の私』は貴方にそんなことを教えていましたか?」
「ああ」
「『以前の私』はよほど貴方を信頼していたのですね。教えて下さりありがとうございます」
「ならば俺にも教えてほしい。
魔法を習う目的は何?」
「自分にかかった魔法を自分で解くためですよ。
貴方も『以前の私』に会いたいでしょう?
そのための努力をしようと思って」
「それだけ?」
「……」
彼女はじっと俺の目を見る。
そして一息吐いて言った。
「……クローディア公爵子息は鋭いですね。
正直に申し上げましょう。
私も綺麗なものが見たくなったのですよ」
「綺麗なもの?」
「ええ、私にとって綺麗なものが見たいのです」
「よく意味がわからない」
「貴方の魔術は綺麗だった。兄の剣技のように。
私も魔法の中に『綺麗』なものを見たいのです。
貴方のお祖父様のように」
「祖父のことを気付いていたのか?」
「貴方に貴族名鑑を見せて頂きましたから。
クローディアの名を冠する貴族は貴方のお家だけ。
その領地にいる身分の高い老紳士なら、前公爵様にあたるのではないかと」
「その通り。俺の師が祖父だ。
レイは生前祖父と話をしたことがあると聞いた。
どんな話をした?」
「魔術と魔法の話です。両分野に通じている方はなかなかいらっしゃいませんから、貴重なお話でした」
「具体的には?」
レイは少し目を伏せて言う。
「貴方は……お祖父様に良く似ていらっしゃる」
「どこが?」
「一途なところ。
だからこそ、同じになってほしくないのですが……」
レイは少し困った顔をして、目を逸らした。
「どういう意味?」
「……お祖父様は、亡きお祖母様に会えましたか?」
「会えなかったそうだが、最期の言葉を聞くことができたと言っていた」
「……そうですか。良かったです」
「俺の質問には答えてくれないの?」
「……お祖父様は貴方を愛していらっしゃいましたよ」
レイは初めて穏やかに微笑んだ。
貴族の笑顔ではない、懐かしむ感情を含む笑顔だった。
そして、彼女はそれ以上、何も教えてくれなかった。
この話も残りわずかとなりました。
どうか2人のこれからを見届けて頂けると幸いです。
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