本当の姿を見せる魔法15 王太子殿下
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
夕方、レイの部屋を訪ねたら思わぬ方がいらしていた。
「これは王太子殿下」
「ユリウス、ちょうど良かった。
同席してくれる?」
俺は急いで部屋に入る。
レイは淑女の仮面で微笑んでいるが、生気のない人形のようだった。
「使い魔の件、ユリウスのおかげで早く術師を捕えられて良かったよ。よくやってくれたね」
「勿体無いお言葉です」
「ところで報告によると、ユリウスが追跡魔術をかけた魔術師はセレス嬢を狙っていたとのことだけど、何か心当たりは?」
「私には分かりかねます。捕縛した魔術師は何と?」
「黙秘したままだ」
「そうですか」
「王宮魔術師を預かる者として、このままにしておくつもりはないから安心して。
ところで、セレス嬢の記憶が戻るまで彼女を私の方で預かろうか?」
「なっ⁈彼女を預かる…とは?」
俺は予想外の申し出に驚く。
いくら臣下の身内だからといっても、王太子殿下自ら動くなんて配慮の域をこえている。
「その言葉の通りだよ。
弟は国賓と成婚の儀の対応で忙しいだろう?
だから手を貸そうかと思って」
「それは……そうですが」
「セレス嬢はどうだい?
オリバーの側に居たくはない?」
「……」
レイは笑顔を浮かべたまま王太子殿下を見ている。
そしてゆっくり口を開いた。
「王太子殿下におかれましては私のような者にまでお心をかけて下さり、ありがとうございます。
大変有り難いお話ではございますが、私は兄の職務の妨げになりたくありません。そのため、このままライオール殿下の元で記憶を取り戻す努力をしたいと存じます」
「先程言った通り、弟の周りは今忙しい。
私なら君を守ってあげられるよ」
「お心遣い頂きありがとうございます。
ただ捕縛した者が黙秘している以上、私が狙われているかはっきりわかったわけではありません。
それに、記憶のない私では王太子殿下のお役に立ちそうもありませんので」
「……」
レイは笑顔を浮かべたまま王太子殿下を見ていた。
今は人形ではない。
何というか相手を試すような目だ。
王太子殿下はそんな彼女をじっと見ている。
「……ふふ、本当に面白い子だ。
気が変わったら、いつでも言っておいで」
「過分なご配慮を賜り、恐悦至極にございます」
王太子殿下が楽しそうな顔で退出されたので、俺はホッとした。
見るとレイもため息を吐いていた。
少なからず緊張していたのかと思われる。
外見からや口調からはわからないが、中身は9歳なのだ。
だからか時々貴族の笑顔を取り繕うのが遅れて、表情が垣間見える。
「レイ、王太子殿下と何があった?」
「私にも分かりかねます。
以前の私は何かしておりましたか?」
「……色々」
「例えば?」
「男装していた」
「ああ、ドレスよりは動きやすいですからね」
「そういう問題?」
「外見なんて、その人の一部に過ぎませんから」
それは以前のレイが言っていたことと同じだ。
記憶を失っても、レイはレイなのだということが嬉しかった。
「ただ令嬢としてはどうかと思いますよ。
クローディア公爵子息も大変ですね。
もっとお淑やかなご令嬢を婚約者としてお迎えした方が良いのではないですか?」
深い緑色の瞳がこちらを見る。
先程王太子殿下に向けたのと同じ、何というか相手を試すような目だ。
「俺はレイがいい」
俺は素直に口にする。
「どこが良いのか分かりかねます」
彼女は少し首を傾げて、貴族の笑顔で応えた。
「それ、本人が言うこと?」
「記憶がないので、別人のようなものですよ。
貴方もそう感じているのでは?」
見透かされているような言葉は一旦スルーする。
「その言い方だと、記憶がないことをあまり悲観していないようだが?」
「悲観したところで現実は変わりませんから。
ただクローディア公爵子息には申し訳ないと思っています。
ライオール殿下のお忙しい時期にご迷惑をかけることになって」
現実的なところも変わっていない。
やはり本質は変わらないのだ。
「そんなことは気にしなくていい」
俺は本心から言った。
「貴方が私を大切にしてくれていることはわかります。
だからもう本来の務めにお戻り下さい。
私は大丈夫ですから」
「しかし……」
レイは俺が言葉を続ける前に口を開いた。
たぶん何を言おうとしているのか、分かっているのだろう。
「私が狙われているかはっきりわかったわけではありませんし、それに私が王宮内に居れば何もできない。そうでしょう?」
そうは言いつつ、彼女は自分が狙われていることを分かった上で、この言葉を選んでいるのが分かった。だが俺には反論の余地がない。
「婚約者としてご心配を頂いていることは承知しておりますが、貴方の本来の職務が疎かになることを、私は望みません。
たぶん以前の私も、同じ事を言うと思いますよ」
「……分かった。
仕事を片付けてから来ることにする」
「くれぐれもご無理なさらないで下さいね」
レイは淑女の笑顔で見送ってくれた。
今日も彼女のペースだったが、前よりは、自然に会話できる様になったと思う。
やはり彼女と話すのは楽しいと感じる。
以前と変わっていないところを垣間見れたし。
クローディア家の者は特定の人に執着する傾向があると家令が言っていたが、俺ももれなく当てはまることを自覚している。
レイと出会ってから今日まで、彼女に興味を持ってからずっと執着している。
以前の彼女はもちろん、別人に見えるような今の彼女でも。
そう、
俺はどんな彼女でも好きなのだ。
これから終盤に向けて話が進みます。
どうか彼らのこれからを見届けて下さると幸いです。
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