特使2
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私がどうしたものかと思案していたところ、クローディア公爵閣下とユリウス様が執務室に入ってきた。
秘書官が慌てて席をはずす。
ユリウス様は無表情ながら、かなり不機嫌そうだ。
クローディア公爵閣下が席に付き、口を開く。
「アレキサンドライト、特使付き官吏の任は聞いたな。王太子殿下からの特別な依頼だ。できるな?」
王太子殿下は王族側のホストで、宰相であるクローディア公爵閣下は外交の責任者だ。
秘書官から伝えられた時点で決定事項だろう。
おそらく断れない状況なのだ。
「最善を尽くします」
私は恭しく首を垂れる。
「父上!私は反対です」
ユリウス様が堪らず口を挟む。
私の事を心配している様子が伝わる。
「ユリウス、お前もわかっているだろう。
彼女は優秀だ。その働きのおかげで、下位宮は我々が掌握した。
だがそれを面白く思わない輩は必ずいる。
奴等にとって、これは絶好の機会なのだ」
「ですが、下級官吏を取扱の難しい昭国の特使付きに当てるなど!まだ王太子殿下との茶会も叶わない状況なのですよ」
「特使滞在の残りの日程を考えれば、誰が入っても難しい案件だろう。だからアレキサンドライトが入って状況が変わらなくても仕方ない。逆に状況が好転すれば、周りは彼女の力を認めざるを得ない」
なるほど。私をよく思わない勢力の後押しもあって、今回の話が進んだのか。
下級官吏を特使に当てる等、前代未聞の人事だろう。
「公爵閣下、特使付き官吏の任を承ります。
それから、ユリウス様と少しお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「わかった。任せる」
「ありがとうございます」
公爵閣下が席を外される。
執務室にはユリウス様と私だけになる。
ユリウス様は俯いて、私と目を合わせない。
彼の方が事態の深刻さを分かっているだろう。
私が就く官吏の任の大変さも。
断れないこの状況も。
それでも私の身を案じてくれる人なのだ。
ユリウス様自身も特使達の対応で、寝る前も惜しむ程の忙しさだというのに。
私はユリウス様の手を取る。
彼は拳を握って我慢している。
私が拳を包み込むと、僅かに握りが緩んだ。
執務室での触れ合いはこれが限度だろう。
私はユリウス様を見上げて微笑む。
彼も私を見て、眉を下げた。
「私は大丈夫です。出来ることをするだけです」
「俺は心配だ。昭国の特使は男しかいない。そんな中にレイを入れるなんて、何かあったらどうする?」
「その時は本気で逃げることにします」
「王宮では魔法は使えないぞ」
「だとしても問題ありません。私には頼りになる婚約者がついていますから」
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