本当の姿を見せる魔法12 理解
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
レイは用意された資料を丹念に見ている。
まず貴族名鑑を見て、それから王宮魔術師の名簿と王宮騎士団の名簿を見た。
名簿には名前と生年月日、出身しか記載されていない。
レイは、軽く一息吐いた。
「クローディア公爵子息、資料をありがとうございました。
王宮魔術師のこの2人をしばらく監視して頂けると助かります」
「なぜ、この2人?
いや、彼らは同門か?」
「良くお分かりになりましたね。
ビヴィ公爵家の末端の家です。
貴方が追跡をかけた者はこの2人の内のどちらかか、又はこの2人と協力関係にある者でしょう」
「なぜそう思う?」
「おそらくこの2人のうち1人は兄と一緒に森に同行した者、もう1人はその日非番の者だと思います。非番の方が兄に使い魔をつけた方で、森に同行した方が中継用の使い魔を配した方でしょう」
「確かに使い魔の術式を考えれば複数の術者が関わっているとは思うが、まさか王宮魔術師が?
どうしてそう言い切れる?」
「それを教えたら、一つお願いを聞いて下さいますか?」
「内容による」
「私をセレス家に帰して下さい」
「それは……今はできない」
「ならば、先程から私が話している内容を『私が話した』と公にしないで下さい。
もし王太子殿下やライオール殿下に報告されるのでしたら、貴方が考えたことにして報告して下さい。それが条件です」
「……分かった」
「交渉成立ですね。
クローディア公爵子息の方が魔術に詳しいでしょうからお分かりかと思いますが、あの使い魔は高度な術式を使用して、かつ王宮の魔術防御の特性を突いてきている。しかも使い魔を配したタイミングを考えても、王宮魔術師を疑うのは自然かと」
「だからといっても、この2人だと判断した根拠は?」
「実は私は、あの使い魔を結構前に見たのですよ。
私の記憶で『結構前』になるので、この体だと9、10年前ということになります。
その使い手と現在の対応する家門を照合して、名簿から該当者がいないか辿っただけです」
「そんな前に使い魔を見た?なぜ?」
「それは私が聞きたいところです。
相手は意図まで教えてくれるわけではないので」
彼女が言っていることは尤もだが、彼女は困っている様子ではなかった。おそらく家宝の宝石を狙っている者の仕業だと分かっているのだろう。
「……そうだな。
では王宮騎士団の名簿を確認したのは?」
「騎士団の誰かが、兄を陥れようとした可能性を考えました。騎士団の様子を実際見た限りでは、可能性は低いと思います。
しかし騎士団構成員全員の様子を確認できたわけではないので、念のため名簿も確認した次第です。
騎士団内に該当者がいないことから、騎士団は無関係かと思います。
だから使い魔の件は兄が狙いではないようです。
おそらく利用されただけかと」
「利用されただけと考えるには早計では?」
「先程貴方が追跡をかけた術者は、明らかに私を狙っていました。最近の兄は私を度々見舞っておりましたので、そのために利用されたのではないかと。
また兄は気配を察するのが上手いのです。
その兄が使い魔に気付かなかったのは、自分に対して害意のないものだったからだと思います。
まあ、私の言では説得力に欠けますので、捕えた者の口から聞けばはっきりしますよ」
「ならば狙いはレイということ?
何か心当たりが?」
「さあ、今の私には分かりかねます。
少なくとも兄ではない」
「分かった。王太子殿下に報告しておく」
「ありがとうございます。
あと、約束は守って下さいね」
「ああ」
「ご存知かと思いますが、使い魔を破ると術者に返ります。
この2人は身体のどこかを痛めていると思いますよ。例えば刺し傷があるとか、ね」
「だから剣で刺したのか?」
「まさか。
蜘蛛の特性を持つ使い魔を仕留めるなら、小さな的を正確に狙わないと逃げられてしまいますから」
レイは優雅に微笑む。
淑女の、感情を見せない笑顔。
綺麗な人形の様だと思った。
彼女は、全て計算ずくのようだ。
最小の動きで最大の効果を得る様な、合理的な思考。
彼女はオリバー上級騎士に起こったことを迅速に解決したかった。
だから自ら動いた。
自分を囮にして、俺の動きも予想して、
王宮として最短で解決させる道筋を示した。
同時に俺の力量を測った。
これは、あくまで彼女の予想を裏付けするためのもの。
彼女はそれよりも前に思考している。
おそらく一人で解決するつもりだったのだろう。
けれども俺が同行することになり、逆に俺を巻き込むことでプラスの要素になるよう修正した。
一体どこまで見通して動いているのか?
「私が狙いなら、直接来るがいい」
毅然と言い放された彼女の声を思い出す。
彼女は自分が狙われていると確信があるようだ。
だから家族が巻き込まれないように、自分を矢面にする。
自分の大事なものを守るために、自分の身を惜しみなく使う。
これが9歳の時の彼女なのか。
大人と渡り合ってきた能力と度胸。
以前の彼女は見せなかった、容赦のない冷たさがある。
これらが辛い目に遭ったために身についたものだと思うと、胸が苦しくなった。
そして、それが
レイがヤン殿下に踏み込んだ理由だと理解する。
あの時は、彼女しかヤン殿下の境遇を、本来の姿を理解できなかった。
彼女なりに、ヤン殿下に手を差し伸べたかったのか……。
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