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本当の姿を見せる魔法11 牽制

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

しばらくして、彼女はベンチから立ち上がり数歩前に出る。


地面から何かを拾い上げる。

2つ。

石のようだ。



突然振り返り、いきなり投げつける。



すると何もないはずの空間に火花が散った。



彼女は驚かない。

そうなるのを分かっていたような、当然の態度。



そして、はっきりと周りに聞こえる声で言った。



「私が狙いなら、直接来るがいい。

雇い主に伝えなさい」



毅然と言い放つ声は、無人の空間に霧散する。



彼女は、さらに奥の木に向かって石を投げた。



すると何が動く気配がして、その後気配が消えた。



彼女は何事もなかったかのように、ゆったりとベンチに座る。



そして淑女の仮面で微笑んだ。



「クローディア公爵子息、見ていらしたのですね?」



俺は身を隠していたところから出て、レイの元に向かう。



「ああ、今のは何?

何故、魔術を破れた?」



「教えれば、私のお願いを聞いてくれますか?」



「お願いって?」


「家に帰ること」


「それは、今はできない」


「残念です、クローディア公爵子息。

ところで、先程の者に追跡する術はかけてありますか?」



「ああ」



「それは上々」



「俺のことを利用した?」



「貴方が利用して良いと言って下さったので。

貴方も私を利用しましたね?

おあいこです」


俺が様子を見ていることは分かっていたらしい。

微塵も動揺していないところを見ると、こうなることは織り込み済みで動いていたのか。


「……」



彼女は軽く息を吐いて、淑女の仮面のまま言葉を続ける。



「飲み物を頼んだお礼に、クローディア公爵子息の質問にお答えしましょう。

先程の魔術を破ったのは、綻びを突いたのです」



「綻び?」



「クローディア公爵子息は魔術について『複数の事象が規則的に調和してゆく』と仰いましたね。その『調和』を乱す部分を突いたのです」



「!

そんなことができるのか?」



「私は非力ですから、そんな事しかできません。

私は魔術に関してはわかりませんが、要は、調和しなければ術として完成しないのでしょう?


ただ、これは貴方には通じない。

貴方は術の展開が早過ぎる。

先程の術も相手が動揺しているうちにかけましたね?」


相手に追跡魔術をかけるのだから、気付かれないように気配も抑えた。

そのわずかな気配を彼女は察知したのか?



「ああ」



「やはり貴方も優れた魔術師でしたね」



「それを確かめるために、わざわざこんな真似を?」



「まさか。私は狙われた側ですよ?」


以前も同じ様なやり取りをした様な気がした。



俺はレイに近付いて、飲み物を渡す。



「ありがとうございます。転移魔法で持ってきて頂くなんて、光栄です」



この近くで、飲み物を手に入れられるところはない。

それを予想して、わざと頼んだのだろう。



「俺を試した?」



俺の魔術の程度を、

俺の状況判断能力を、

俺の意図を。



「貴方も『今の私』を試した。

おあいこですよ」



深い緑色の瞳がこちらを見る。

理知的で俺の好きな瞳。



「では飲み物を持って来たから、俺を信頼してくれる?」



「ええ、貴方はライオール殿下の優秀な側近です。

私には勿体無い婚約者ですね」



✳︎



王宮に戻る道でレイが口を開く。


「クローディア公爵子息、お願いがあります。

王宮魔術師と王宮騎士団の名簿と貴族名鑑を見せて頂けないでしょうか?

できれば王太子殿下とライオール殿下に知られないように」



「なぜ?

今回のことに関係があるなら、両殿下に知らせて協力を仰ぐべきだろう?」



「私の杞憂かもしれないので、騒がせたくないだけです。難しいなら結構です」



「……分かった。

何を考えているのか教えてくれるなら名簿を見せる」



「では名簿を見ながらお話しませんか?

その方が早い」



「……」



彼女は本当に9歳以降の記憶がないのだろうか?


駆け引きについては、出会った当初の彼女と遜色がない。

記憶を失う前のレイは会話に柔らかさがあった。

むしろ今の方が手加減がない分、鋭さ感じる。

しかも相手に付け入る隙を与えない。



今の彼女は、記憶を失った当初の彼女とも別人のようだ。


生気のない人形ではない、明確な意思を持った人形。無駄のない動きで、目的を遂行するためだけに動く。


今の目的はおそらく、オリバー上級騎士を一日も早く職務に戻すこと。

彼女は大事な家族に降りかかったことを、放っておくようなことはしない。



そうだ、

どんなに別人の様に見えたとしても、本質は変わらない。彼女はずっと家族を大切にしている。


ならば、彼女の鋭さは彼女本来の能力だということ。

今までは見せなかっただけなのだろう。


今それを隠していないのは、俺を信頼してくれたということだろうか?



いや、信頼には程遠いな。

利用している、が正しい。



終始彼女のペースで進められるやり取りで、こちらは完全に後手だ。

ただ嫌ではなかった。


そう、彼女と一緒なら嫌ではないのだ。

それが自分らしくなくとも。


以前のように、一緒にいられなくとも。

評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。

ありがとうございます^_^

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