本当の姿を見せる魔法10 綺麗
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
騎士団は王宮の東に、宿舎と鍛錬場を持っている。
オリバー上級騎士は幸い体調に問題はないようだが、使い魔の件が解決するまでは騎士団内で過ごすことになっている。
少なくとも使い魔の狙いがオリバー上級騎士ではないとわからないと、側近としての職務には戻れないだろう。
狙いがオリバー上級騎士の場合、王太子殿下の側には置けないからだ。
オリバー上級騎士は他の騎士達と鍛錬場で稽古をしていた。
レイは稽古を邪魔したくないので、こっそり様子を見たいと言う。
俺は騎士団長に話を付けて、特別に裏手から鍛錬場を見せてもらうことにした。
レイは最初全体を隈なく見ていたが、しばらくしてオリバー上級騎士だけを見つめていた。
眼差しが柔らかい。
今の彼女がこの眼差しを向けるのは、セレス家の家族と家人など限られた者のみだ。
それが悲しい。
一番はそこに自分が入っていないことが悲しい。
でも、今は仕方のないことだ。
そして、その気持ちを切り離しておく。
「オリバー上級騎士の剣技は素晴らしいな」
俺は素直な感想を述べた。
さすが若くして上級騎士になる程の腕前だ。
「私もそう思います」
レイはオリバー上級騎士から目を離さずに言う。
「昔から、オリバー上級騎士の稽古を良く見ていた?」
「ええ、見ていて飽きないので」
「どこに惹かれる?」
その質問をして、初めてレイがこちらを向いた。
俺の顔をじっと見て、また目を逸らした。
「綺麗なところ」
「綺麗、、
そうかもしれない」
「もう行きましょう」
そう言ってレイはその場から離れた。
オリバー上級騎士に声を掛けなくて良いのかと聞くと、今は邪魔をしたくないと言う。
✳︎
レイは人の少ない公園みたいなところに行きたいと言う。王宮以外の、静かなところでゆっくりしたいと。
そこで王宮の東門を出て、少し歩いた開けた場所に向かう。ここなら人が少ない。
記憶を失ってから、レイとの会話は少ない。
彼女は必要なこと以外話さない。
そんな彼女が、珍しく尋ねてきた。
「クローディア公爵子息は魔術が使えるということですが、魔術のどんなところに惹かれるのですか?」
俺は急に聞かれて少し戸惑ったが、正直に答えた。
「綺麗なところかな」
先程のレイの返答に似たのは偶然だ。
「どういうところが綺麗なのですか?」
彼女は思うところがあったのか、さらに尋ねてきた。
「術の因果関係がはっきりしていて、複数の事象が規則的に調和してゆく美しさが綺麗だと思う」
レイは少し目を見開いた。
「……そうですか。昔、同じようなことを言った人がいました。その方は優れた魔術師でした。貴方もそうなのでは?」
たぶん祖父のことだと思った。
幼い彼女はクローディア領の屋敷で一度祖父と会っている。
「……レイにそれを言ったのは、おそらく俺の師だと思う」
俺は彼女からの質問を一部答えなかった。
自分が魔術師としてどうなのかは、さして考えていないからだ。
優劣をつけるのは他人で、俺自身の評価ではない。
「そうでしたか。その方は今は?」
「既に亡くなったよ」
「……それは、寂しいですね」
彼女は俺を見ない。
たぶん亡き人に想いを馳せている。
「……」
ベンチを見つけて、2人で座る。
周りには木が疎にあるだけ、誰もいなかった。
「クローディア公爵子息、
先程私が兄の剣技を『綺麗』だと称した理由は、貴方の魔術の『綺麗』と似ています。
合理的で無駄のない動き、その連続はまるで舞うように調和して美しい。それを綺麗だと思うのです」
「それは、わかるかもしれない。
でもどうしてそれを教えてくれる気になった?
何か心境の変化が?」
「兄は貴方を信頼に足る人だと言っていましたから」
「それは光栄だね。レイも信頼してくれた?」
「……そうですね。
何か飲み物を持って来て下さったら、信頼しましょう」
突然の話題転換で、少し戸惑う。
「飲み物?何か飲みたいの?」
「ええ、公爵子息にお願いするのは大変恐縮ですが、お願いできませんか?
私はここにおりますので」
彼女は貴族の笑顔で答える。
こういう「お願い」は以前の彼女は一度もしなかった。
「分かった。何でもいいか?」
「はい、よろしくお願いします」
俺は戸惑いながらもベンチから離れた。
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