本当の姿を見せる魔法9 使い魔
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
オリバー上級騎士に使い魔がついていた件で、王太子宮が急遽調査をすることになった。
王太子殿下が直々にお見えになり、レイに事情を聞く。
魔術の使用できない王宮内でなぜ使い魔の存在を確認できたのか、王太子殿下が彼女に直接尋ねる。
彼女は「なんとなくそんな感じがして」と曖昧な回答をした。
彼女は兄オリバーのことをひたすら心配していた。
今は騎士団にいる兄の様子を見に行きたいと、王太子殿下に奏上する程だった。
王太子殿下は記憶を亡くしたレイに対して、色々と配慮して下さる。今までは側近であるオリバー上級騎士が、レイの様子を見に行けるように取り計らってくれていた。
だからなのか、王太子権限で騎士団に見学に行く許可を出してくれた。
「以前昭国の舞台を観劇した際に、彼女には世話になったから」と王太子殿下は言う。
例の『月の精霊』の騒動の時に、王太子殿下はお忍びで舞台を見に行っていた。
殿下の観覧していた席に賊が入ったという情報があって、且つそれがクローディア家の関わっていた舞台であったため、俺も様子を見に劇場に向かった。
会場の表には殿下の部下が沢山いたため、裏口にまわったところ『月の精霊』の格好をしたレイを見つけた。彼女は隠したかったようだが、すぐに分かった。
「自分は舞台途中で退席を命じられた」とレイは言っていたが、おそらく王太子殿下をエスコートしただけではなかったのだろう。
王太子殿下は明らかにレイを気に入っている。
「側近のオリバーの妹だから」という以上の配慮を感じる。
いや、それよりも、今考えるべきは、先程自分の目の前で起こったことだ。
オリバー上級騎士のマントに「姿を隠した蜘蛛の使い魔が付いていた」。
それに気付いたレイが、王宮の外で使い魔を排除するように仕向けた。
使い魔はどこでつけられた?
オリバー上級騎士の話と状況から、北の森で任務を終えて王宮に戻るまでに使い魔をつけられた。
北の森の中で使い魔をつけられた可能性も考えたが、王宮魔術師が一緒ならさすがに気付くだろう。
仮に王宮魔術師に不審な動きがあれば、周りの騎士が気付くだろうし。
王宮内は魔法と魔術は使用できない。
使い魔は王宮内で機能できないはずだ。
だから再度王宮外に出たら再び機能できるように、北の森の入り口に中継用の使い魔が配されていたのだろう。
一体何の目的で?
そして彼女は、どうして分かったのか?
✳︎
王太子殿下が退出された後、俺はレイに再度問うた。
「レイ、使い魔のこと、どうして気付いた?
オリバー上級騎士が部屋に入っていた時には既に気付いていたのだろう?」
「クローディア公爵子息、王太子殿下にもお伝えした通り『なんとなくそんな感じがして』なのですよ」
「……」
王太子殿下に対応した時と全く同じ反応だ。
すると珍しくレイが俺に質問をした。
「クローディア公爵子息、先程王太子殿下から伺いましたが、貴方は魔術が使えるのですか?」
「ああ」
「では、あの使い魔を見てどのように思いましたか?」
「あれは魔術だと思う。実体があった。
それに王宮外に出た時に僅かに魔術の気配がした」
魔術と魔法の最大の違いは、物質を実体化できるか否かだろう。
魔術は術式が有効なら実体化し続けられる。
例えば祖父が残した細工の箱の様に、術者がいなくてもその効力を残すことができる。
一方、魔法はそれ単体で実体化し続けられな
い。
祖父の見せた魔法の中で、一時的に質感のある幻を見せたように。
この違いにより、我が国は魔術が主流になった。
効果が長く残り、かつあやふやなものではないから重宝される様になったのだ。
「複数の術式を組む高度な技術だ。
あくまで使い魔としての性能を損なわず、視認できない様にし、さらには王宮の探知にかからないようにしているのだから」
「なるほど」
レイは口元に手を当て、何か考え込んでいるようだった。
今まで見た事がない険しい表情にどきっとした。
こんな鋭い彼女は見た事がない。
今は人形の様な印象は受けず、感情を素直に表に出している様子が新鮮だった。
しかし、俺に話しかける時には貴族の笑顔に戻ってしまう。
「クローディア公爵子息、王太子殿下から許可を頂きましたし、騎士団に兄の様子を見に行きたいのですが宜しいでしょうか?」
「ライオール殿下の許可を取ってくる」
「私一人で行きたいのです。
少し兄の姿を見に行くだけですから」
やはり一人で行きたがるか。
しかし今の彼女を一人にするわけにはいかない。
今の彼女ではなくても、俺は付いて行くだろうが。
「レイは今はライオール殿下の保護下にあるから、どちらにしろ許可が必要だ」
「ならば騎士団を見学した後に、少し王宮外へ出たいのです。その許可もお願いします」
何というか、流れるような問答だ。
こちらが何を言うかわかった上で、次の言葉を用意しているかの様子。
ライオール殿下は「俺と一緒ならどこに行っても良い」という許可を出した。
俺はしばらく職務を離れることになるのだが、ライオール殿下もロバートも気にするなと言ってくれた。
2人は多忙な中、レイの記憶を取り戻す手掛かりを探してくれているのだ。
正直助かる。殿下とロバートには感謝しかない。
ライオール殿下の許可した内容を聞いたレイは、一瞬微妙な顔をしたが貴族の笑顔で返す。
「お忙しいクローディア公爵子息のお時間を、私だけが頂くわけにはいきません」
その台詞は以前も聞いたな。
「これも婚約者との交流だ。
それに俺と一緒ならどこに行くにもいちいち許可を取らなくていい。
俺を利用すればいい」
その言葉はすんなり出てきた。
今まで、彼女にどう接したら良いのか分からなかったのに、この状況になって初めて自分の答えが出た気がする。
「貴方は私に利用されても良いと?」
彼女の挑む様な瞳には覚えがあった。
初めてセレス領で会った時のやり取りを思い出す。
そう、
俺はどんな彼女でも、側にいたいのだ。
「レイに利用されるなら光栄だ」
彼女は軽くため息を吐いて、淑女の微笑みを浮かべた。
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