本当の姿を見せる魔法6 過去
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
レイの記憶が戻らないまま2日経ち、その日の午後にセバスチャンとモランが王宮を訪れた。
2人ともレイの状況に驚いていたが、そこは優秀な家令達である。
動揺を悟らせない顔になり、彼女と対面する。
セレス伯爵も同席して1時間くらい面会した後、レイは「少し疲れたから休む」と言って部屋に籠った。
俺は部屋から出てきた3人に話を聞くが、皆一様に浮かない顔だった。
レイがセバスチャンとモランを呼んだのは自分に記憶がないことから、信頼している家令達から話を聞くためだった。
領地の現在の様子、セレス前子爵夫妻の事件のこと、攫われた子供達の所在、そして現在のセレス家の状況等を確認したそうだ。
レイは、前子爵夫妻の事件が解決し、攫われた子供達が領地に戻ってきていることに安堵していたと言う。
現在のセレス領は順調で、セレス家も伯爵家として落ち着き、承継も含めて問題ないことを喜んでいたそうだ。
内容は良い報告なのに、3人は表情が固い。
俺は気になって聞くと、セバスチャンが重い口を開いた。
今のレイは、9歳の頃と様子がそっくりで、記憶退行は間違いない。
その頃の彼女は今の家族の以外の貴族は信用しておらず、信頼できるのは家人と領民だけ。
家門と領民を守るために幼いながら1人で奮闘していたそうだ。
それというのも、セレス前子爵夫妻が亡くなってすぐ、子爵や夫人の知り合いと称する大人達がセレス家に押し掛けてきたのである。
セレス家の家宝、宝石アレキサンドライトを手に入れたい貴族や、貴族に差し向けられた商人達だ。
レイは悲しみが癒えないうちに、この様な大人達と対峙しなければならず、必要な知識や技能を身につけざるを得なかった。
「家宝は直系以外を拒絶するのです。そのためそれらの者達の矛先がお嬢様に向かってしまい、その、何度も攫われたりと……」
何度も誘拐され、危ない目に遭った。
その結果、護身術や古代魔法の技術も上がっていったという。
俺は言葉が出なかった。
俺も自分の婚約者選びのせいで人間不信になりかけたが、祖父のおかげで乗り越えられた。
しかしその時のレイには親しい身内がいない。
彼女は想像よりはるかに厳しい現実を、 一人で乗り越えてきたんだろう。
でも思い当たることはある。
レイが元婚約者と対峙した時は、馬車で連れ去られそうな状況にも関わらず落ち着いていた。
元ドロール家の関係者に誘拐されたことを話した時も怯えてはいなかったし、その後引きずる様子はなかった。
俺が居場所のわかる術を使わなければ、いつでも一人で身を隠せる技量があったのだろう。
俺は特使歓迎の夜会で、躊躇なくバルコニーから身を投げた彼女の姿を思い出す。
ヤン殿下のこともそうだ。
ヤン殿下とレイの庭園での話を聞いたが、2人には何か通じるものがあった。2人とも親と死に別れているからだと考えていたが、それだけではなかった。
庇護する大人のいない環境で、自分が狙われながらも他人を守って生きてきた者同士だ。
レイは他人とは適切な距離感を保つが、ヤン殿下には最後は自分から踏み込んだ。
あれは彼女がヤン殿下と自分を重ねていたからだろうか?
今までの違和感と合わさるピース。
そして、平民になりたいといった気持ちは、
おそらく貴族が嫌いだったから。
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