本当の姿を見せる魔法4 記憶
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「セレス伯爵令嬢が記憶喪失?」
「正確には記憶退行かと思われます。
魔法同士の衝突の際に、何らかの作用があったものと思われます」
別室に移り、ライオール殿下とロバートが医者や王宮魔術師と話している。
それらの話が、俺の頭に全く入ってこない。
レイが記憶をなくした。
俺はこの事実に呆然としてしまう。
しばらくして、セレス伯爵が部屋に入ってきた。
今は兄のオリバー上級騎士が、レイの側についている。
この騒ぎを聞いた王太子殿下が、彼女のためにオリバー上級騎士を特別に遣わしてくれたらしい。
セレス伯爵によると、レイは9歳頃の記憶まではある様だった。
セレス伯爵が事情を説明するとレイは混乱した。
目覚めた自分が、今18歳だということが信じられない様子だったそうだ。
鏡に写った自分の姿や、義兄であるオリバー上級騎士の成長した姿を見て、なんとか落ち着いたという。
その上で「セレス家に帰りたい」と希望しているとのこと。
「セレス嬢本人からも話を聞くため、しばらく王宮に留まってほしい」とロバートが言うと、セレス伯爵は言い難そうに口を開いた。
セレス伯爵によると、彼女がこう言ったそうだ。
「もし王宮に留まる様に言われたら『セバスチャンとモランと連絡が取れるように取り計らって欲しい』とお願いしてもらえませんか?」と。
セバスチャンはセレス家の元筆頭家令、モランはセレス領にいる家令のことだ。
ライオール殿下の許可を得て早速手配する。
セバスチャンとモランとは明後日面会できる運びになった。
そのためレイはしばらく王宮に留まる旨を承知した。
「セレス伯爵令嬢はまるでこちらが何を言うか分かっていて、予めセレス伯爵に指示していたかのようだね」とロバートが言う。
確かに、たまたまだろうか?
いきなりこんな状況で、現実もまだ飲み込めていないと思うのだが……。
外見は18歳でも、本人には9歳までの記憶しかないというのに。
貴族で9歳なら、王立学園の幼稚舎に通う年齢か。
「時にセレス伯爵、セレス嬢は魔法が使えたのか?」
ライオール殿下が伯爵に問う。
俺はギクっとした。
我が国で魔法が使える者は貴重だ。
レイは官吏をしていた時も魔法が使えることを明かさなかった。
たぶん王宮に知られると、王宮魔術師として囲われてしまうからだと思われる。
「ライオール殿下、当家には『直系しかできない手続き』がありまして。娘は継承の儀の術は使えますが、魔法が使えるかどうかはわかりません」
「ふむ、古い貴族の家にある儀式だな。
ならば魔法が使えても限定的だな。
セレス家は魔術師の系統でもないしな」
俺は内心ホッとした。
レイは魔法が使えることを家族にも明かしていない。
『直系しかできない手続き』以外は、家族の前で魔法を使わないのだろう。
実際は転移魔法と探知魔法を使えると聞いている。
このことを知っている可能性があるのは、元家令のセバスチャンと、領地家令のモランくらいだろうか?
聡い家令なら彼女に取って不利になるようなことは言わないだろう。
いまや魔術師でもないのに、転移魔法が使えることが珍しいのだ。
もし知られれば、周りは放っておかない。
ライオール殿下とロバートが退出した後、俺はセレス伯爵から改めてレイの様子を聞いた。
彼女は両親が亡くなり、今の家族と王都の屋敷で一緒に住んでいると思っている。
だが自分の9歳以降の記憶は覚えていないそうだ。
両親を殺した犯人が捕まったことや、王立学園を卒業したこと、俺の婚約者として公爵家に住んでいることも。
やはり俺のことも覚えていないのだな。
先程のレイの表情も声を思い出す。
明らかに警戒していた。
彼女とセレス領で初めて会った時も警戒されていたが、その時よりも警戒の度合いが強いと感じる。
俺は彼女の側について居たかったが、彼女の状態を考えれば、余計に混乱させてしまうだろう。
彼女の深い緑の瞳にうつった驚愕と拒絶の色を思い出す。
セレス伯爵の進言もあり、その日俺は側に居るのを控えた。
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