月の精霊2
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
数日後、私はまたもや商会で支度をしてから会場へ向かう。
商会ではこうなることがわかっていたかのように、準備一式が整っていた。しかも前回より念入りにアクセサリーをつけられる。
黒いジャケットに銀色のアクセサリーを付けて、今までよりも華美になった。
今日の席もニコライさんが用意した。
クローディア家の馬車が到着し、夫人が降りてくる。私はスッと近付き、挨拶する。
「クローディア公爵夫人、クローディア公爵令嬢、ようこそおいで下さいました」
「あら、ほほほ、素敵な方だこと」
「お母様、こちらはどなたですか?」
「エリザベス、まずは席に案内して頂きましょうね」
私はクローディア公爵夫人とエリザベス様を特別席にエスコートする。
エリザベス様はエスコートしているのが私とは気付いていないようだった。
まあ、令嬢が男装しているとは思いもよらないだろう。化粧で顔の印象が変わっているのも効果があるようだ。
今を時めく公爵家の美人母娘が揃っているので、前回よりも視線を集めているような気がする。
しかし私は役目に集中する。
たぶん商会の狙いはコレだったのだろう。
舞台中に出てくる『月の精霊』の背格好に似た私を特別席に置くことで、更なる話題作りをしようとした。私は長い黒髪なので、適役だったのだろう。
特別席に着いて、クローディア公爵夫人がエリザベス様にこっそりネタバラシをする。
「お姉様、とても素敵です」
エリザベス様は大層驚いていたが、私の格好が似合っていると言って下さった。お世辞でもありがたい。
ただエリザベス様の、私を見る目がなんだかいつもと違うような気がするが、キラキラした目なのできっと悪い印象ではないと思う。
クローディア公爵夫人は終始ご機嫌だった。
満足して下さったようで、内心ホッとする。
普通は家の醜聞に関わるのでこんなことは認めないと思うのだが、どうも商会からクローディア家に根回し済みだったらしい。
✳︎
それから数週間後、またもやクローディア公爵夫人に呼ばれる。
「アレキサンドライトさん、王太子殿下が舞台をご覧になるときに『月の精霊』として同行して頂けないかしら?王太子妃殿下からも是非にと頼まれたの」
全く予想外の話で身が竦む。
身内をエスコートした時とは訳が違う。
「クローディア公爵夫人、それはさすがに……」
「『月の精霊』見たさに、かなりの人が特別席に集まっているそうよ。そこで最後に迎賓席で役目を果たしてほしいの」
つまり、これで幕引きをするつもりなのだ。
「……かしこまりました」
✳︎
承諾したとはいえ、私はなんとか悪あがきをする。
「ニコライさん、誰か代わりに『月の精霊』役をお願いできませんか?」
「お嬢様、これがなかなか難しいのです。
ご存知の通り『月の精霊』は男性とも女性とも見える役所、つまり中性的な美しさがないといけません。またお嬢様は女性の中でも背が高いので、男性服も着こなせます。さらに高位貴族をエスコートできる優雅な所作は、庶民には難しいのです」
「私は髪色だけしか当てはまりませんよ」
「そこがお嬢様の短所だと、以前も申し上げたでしょう?いつまでもご自分に無頓着なのですから」
「……」
「商人たる者、外見も含めての武器ですよ」
「……はい」
「まあ十分話題になったし、『月の精霊』が身に付けている飾り紐もまもなく売れ切れますので、次で最後になる様に私も協力しますから」
ニコライさんがニコニコして言う。
話題作りだけじゃなくて、アクセサリー類も販売してたのか。本当抜け目がない。
我が国の高位の方は髪色が明るいから、あまり飾り紐を使う人がいなかった。それを髪色の暗い平民向けに流行らせるつもりなのかな?
「わかりました。よろしくお願いします」
足掻いてもダメだったが、でも、これで本当に最後だ。
幸い王太子殿下の側には兄がいる。
いざとなれば協力を仰ごう。
ユリウス様が王宮に泊まり込んでいる最中に、全て終わります様に!
月の精霊のお話を投稿してから、個人的に一番書きたかった話に入る予定です。
引き続きお付き合い頂けると幸いです。
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