仕事
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
下級官吏に登用されてから一年で雇用期間満了になる。
その期間まであと数ヶ月というところ、上司と面談して今後の話し合いをする時期に入っている。
私は任期途中から宰相閣下直属の下級官吏になった。
下級官吏なのに直属なんて前代未聞だったが、宰相閣下の仕事ぶりを間近で見られてとても勉強になっている。
最近の私は、宰相閣下の直属の部下から指示された資料作成と、他部署との調整業務等もさせてもらっている。
自分が組織というシステムに組み込まれることで見えることもある。おかげで「王宮の政策はこのように立案されて実現するのだな」と身をもって学ぶことができた。
なぜ下級である私がそのような機会に恵まれたのかというと、どうも特使付き官吏の時の働きが認められたらしい。
我が国と、東の国の大国である昭国との繋がりが確かなものになったのだ。
昭国使節団は無事に帰国した。
ユエ執務官は持ち帰った証拠を元にヤン殿下に仇なす勢力を一掃。
シャオタイ護衛長の活躍もあり、国内の反乱を最小限に治めた。
ヤン殿下はその有能さを活かして内政を掌握。そこに「名ばかりの第一王子」の姿はなく、カリスマ性を発揮し次期王位を確実にしたらしい。
次期昭国王の後ろ盾になることで、クローディア公爵閣下は外交能力を存分に発揮できるだろう。
王宮内における宰相閣下の影響力はますます強くなった。
私が立案したプロジェクトも孤児院の仕事も、既に軌道に乗っている。私がやりたいアイデアは試せたから、後は後任に任せて良いと思える段階だ。
そう、当初考えていたことは形になったり、実現した。もともと1年間の契約なのだから、かなり順調にいった方だろう。
すると上司であるクローディア公爵閣下から、思いがけない話があった。
下級官吏を任期満了で辞めると思っていた私に、官吏を続ける選択肢が与えられたのだ。
「返事は、ユリウスと相談してからでよい」
その夜、私はユリウス様の帰りを待って相談した。
「官吏を続けるか否か、レイはどうしたい?
俺はレイの意思を尊重する」
そう言って、抱き締めてくれた。
特使の任の一件後、ユリウス様はしばらく私を離さなかった。
たくさん心配をかけたし、不安にさせたのだと思う。
官吏を続ける以上、同じような事が起こるかもしれない。もともと彼は、私が官吏になること自体を心配していた。
それなのに、ユリウス様は私の意思を尊重してくれるという。
彼の気持ちを素直に嬉しく思う。
✳︎
官吏の仕事をするのは楽しい。
色々な学びがあるし、貴族令嬢としての自分よりも合っていると思う。
それをこれからも続けるか、否か。
手元の資料を見ながら考える。
閣下の話によると、合議により「下級官吏の任期を延長する制度改革」が行われたとのこと。
今まで下級官吏は1年契約だっだ。
平民の間では官吏になったという経歴があると商会や民間の組織に就職しやすくなるそうで、官吏として継続雇用を希望する者がいれば登用試験を受け直していた。
それが希望すれば下級官吏として継続雇用が可能になる。これで王宮として優秀な人材を囲い込めるようになった。
つまり私も官吏として続ける選択肢ができたことになる。
そのため、今まで通りにクローディア公爵閣下の直属の部下として働いても良いそうだ。閣下の部下からは残留することを望まれている。お世辞にも「また一緒に仕事をしたい」と言って頂けるのは嬉しいことだ。
さらに私宛に、複数の貴族から直属の官吏として雇用したいという打診が来ている。
これは要職に付いている貴族の直属の官吏になり、上級官吏の仕事ができるということ。
その中の1つにビヴィ公爵家の名前があった。
特使付き官吏の任の際に、ビヴィ公爵子息と言葉を交わしたことを思い出す。
王宮内で、私とヤン殿下が恋仲になったという噂があったが、おそらく噂はユエ執務官がビヴィ公爵子息を通じて流したのだろう。
ビヴィ公爵家が昭国の特使付き官吏を仕向けた件は、私が使えるか試したのだろうか?
使えなければ廃されるだけというのは、実に王宮の要職に就く貴族らしい考え方だと思う。
また自分の中に闇い思いが湧き上がる。
思わず、手元の書類を握り潰してしまった。
私は何をやっているのか。
ヤン殿下やユエ執務官に偉そうなことを言っておいて、過去に囚われているのは自分ではないか。
ため息を吐いて、一旦思考を切る。
気を取り直して、私はこの先のことを考える。
再来月の末には、王立研究所の表彰式に呼ばれる。
そこで学生の時の論文が表彰され、ニール教授がプロジェクトの成果発表を行う予定だ。
本来目立つことはしたくないのだが「私が王立研究所から表彰される」というネームバリューがなければ、このプロジェクトは成らなかった。
そうでなければ、何の実績もない小娘の案に誰も賛同してもらえなかっただろう。
だから表彰を受けることを承知したのだ。
そのせいで私の身元はある程度周知される。
表彰式に合わせて婚約披露される予定なので、今までの様に自由に動くわけにはいかなくなる。
ユリウス様もわかっているから「私の意思を尊重する」と言ってくれたのだろう。
何を迷う必要がある?
1年だけだが、官吏の経験は積めた。
自分の身の周りを整理することは、まもなく終わる。
私が望むことは決まっているだろう?
それに自分はもう戻れない。
そう、彼と出会う前には戻れないだろう。
自分の中の感情を知らなかった頃には戻れないのだ。
ならば、選ぶものは決まっている。
それに、私は彼にこれ以上心配をかけたくない。
そして彼が苦しそうな顔をすることがないように、また苦しそうな顔をした時に直ぐに気が付ける場所にいられるように。
私は任期満了で官吏をやめることを決めた。
次に繋がる話をいくつか投稿してから、個人的に一番書きたかった話を投稿する予定です。前作の時からお読み頂いている方には、よりお楽しみ頂けるかと思います。
お付き合い頂けると幸いです。
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