特使30 帰宅
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
昭国離宮付きの王宮使用人達に最後の挨拶をする。
彼らの働きがあったから任務全うできたことに、心からお礼を言った。
その後官吏としての後処理が終わり、私は昭国付き特使の任を解かれた。
関係者に挨拶をして三ノ宮を後にする。
ふぅと軽く息を吐く。
今日も色々な事があった。
私は自分の中で、処理できていない感情を持て余していた。
ヤン殿下、ユエ執務官、そしてビヴィ公爵子息。
これから時間をかけて処理してゆけばよいのだが……。
遅々として進まない自己処理に嫌気が差して、一旦思考を切り替える。
今は昭国使節団が、無事に帰国されることを祈ろう。
✳︎
王宮を出るための最後の通路の角を曲がると、見慣れた姿があった。
その方は腕組みをして、壁にもたれかかっている。
銀色の髪と端正な顔立ちは美しいのだが、なんだか近寄り難いオーラを放っている。
今は五ノ宮で残務処理に追われているかと思っていたが。
「ご機嫌よう、クローディア公爵子息」
私は官吏用の挨拶をする。
「……」
表情は変わらないが、ご機嫌ではないらしい。
「俺も帰る」
「よろしいのですか?後処理でお忙しいでしょうに」
「ライオール殿下から帰る様に言われた」
「まあ」
なぜ言われたのかは、なんとなく想像がつく。
ライオール殿下のお気遣いに感謝した。
2人で馬車に乗り、クローディア公爵家別宅を目指す。
ユリウス様は馬車の中でも難しそうな顔をされていた。
原因は、、たぶん分かっている。
「ユリウス様、今日はライオール殿下を通じて助けて頂きありがとうございました」
「俺は進言しただけだ」
「ライオール殿下や王太子殿下、クローディア公爵閣下にも動いて頂き、助かりました」
ライオール殿下には茶会の開催と、王子宮の庭園に招いて頂いた件。
王太子殿下には昭国特使の、国王陛下への謁見の時間を調整頂いた件。
クローディア公爵閣下には陛下の謁見の場で、ユエ執務官を別室に招いて頂いた件。
「あれはそれぞれが各自で動いた結果だ。
それがレイの価値だ」
「過大な評価を頂いた様で恐縮です」
「ヤン殿下もだ。過大評価ではない」
ここでヤン殿下の名前が出たので、予想は確信に変わる。
「……ユリウス様、どこまで聞いていらしたのですか?」
「全部」
王子宮はライオール殿下の管轄だから、魔導具を仕込むことができる。
おそらくヤン殿下と私の会話は聞かれているだろうと思っていた。
「ならば、私の気持ちも聞いていらしたのでしょう?」
「あれは……良かった。
それ以外は不満だ」
「ヤン殿下も本気で仰っていた訳ではありませんよ」
「かなり本気だったぞ」
「だとしても、以前私がユリウス様に『ずっと側にいます』と申し上げたのを忘れてしまったのですか?」
「……忘れていない」
ユリウス様はまだ難しそうな顔をしている。
今回もかなり心配させたのだろう。
私はいつも心配させてばかりだな、と反省する。
私は一息ついて、神妙な声で言った。
「それで足りない様なら、行動で示すしかないようですね」
「どう言う意味?」
「今夜は私がユリウス様の部屋に行きます、って意味です」
私は胸を張って、自分なりにドヤ顔をしてみせる。
ドヤ顔は、前に孤児院の子の間で流行っていた。
特使付きの官吏の任に就く前だ。
今はもう別の流行りになっているだろうか?
2週間くらい前のことだったのに、何だか昔のように感じてしまう。
「ふっ……ははっ、レイには敵わないな」
「ふふっ」
ユリウス様の笑った顔につられて私も笑ってしまう。
彼に笑ってもらえると、何とも満たされた気持ちになってしまうのだ。
疲れた気持ちが、軽くなるくらいに。
冷えた心が、温かくなるくらいに。
闇い気持ちを、一時忘れられるくらいに。
特使編を見届け下さった皆様、ありがとうございました。ここから数話挟んで、一番書きたかった話を投稿予定です。個人的には前作も含めてメインの内容になるので、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
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