特使26 その時は私も本気で逃げることに致します
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「その時は私も本気で逃げることに致します」
私も負けじと優雅に微笑んだ。
「ふふっ、ははははっ」
ヤン殿下は堪らず笑い出してしまった。
私は予想外な反応に面食らってしまう。
でも屈託なく笑う殿下の姿を見て、どこか安心している自分がいる。
ヤン殿下はちゃんと笑えるのだ。
良かった。
「まさか、世にそのような返答をする者がいようとは。
全く、其方は見ていて飽きぬ」
「不本意ですが、お褒めに預かり光栄です」
ひとしきり笑ったヤン殿下と視線が合う。
黒曜石のような綺麗な瞳だと思う。
しばらく見つめ合う。
身分は違えど、彼とは分かり合える部分があった。
しかしお互い自分の道をゆく時だと、確信している。
ヤン殿下は軽く一息吐いた。
「其方の好きな人とやらは、夜会で世の次にダンスの相手をした者だな?
先程の茶会にも来ていた」
ヤン殿下が悪戯そうな顔をしている。
偽ることをやめた殿下には、よく似合う表情だと思った。
「お気付きでしたか」
「揃いの耳飾りをしていた。あと2人の雰囲気がな」
「これのおかげで術にかからなくて済みました」
私は耳飾りを触りながら言う。
「ユエが捕えようとしたのに逃れた其方のことだ。世が捕まえられるのかどうか怪しいな」
「殿下とユエ執務官が協力なされば、私も逃げられないかもしれません」
「ならば我らが今以上に協力して、其方を捕えることにしよう」
「ふふ……それはこわい」
「やっと笑った顔が見れたな」
ヤン殿下が本来の彼の顔で微笑む。
「離れていても、どこにいても、殿下のご無事をお祈りしております」
私も殿下を真正面に見て微笑む。
「今はそれで満足してやろう。
だから今生の別れは言わぬ」
「また会おう、アレキサンドライト」
そう言って笑ったヤン殿下は、今までで一番生き生きとして、自然な姿だった。
ここまでお付き合い頂いた皆様、いつもありがとうございます。特使編もあと4話になります。
彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。
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