プロローグ3(ユリウス視点)
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「父上、どういうことですか⁈」
俺は父の執務室に怒鳴り込んだ。
初めて王宮に上がってから十数年、こんなことは今までしたことがない。
宰相である父とは、王宮では親子としてではなく接していた。
しかし今はそれどころではない。
「落ち着け、ユリウス」
おそらく予想していたのだろう。
ゆったりと構える様子は、宰相として上に立つ者の余裕だ。
「落ち着いていられないから来たのです!」
よりにもよって貴族令嬢を平民の官吏の中に入れるなんて!しかも官吏は男しかいない。
「まあ、悪かったと思っている」
済まなそうな顔をしているが、悪いと全く思っていないから腹立たしい!
「露ほども思っていないでしょう⁈
レイを使って何を考えていたのですか⁈」
どうせ俺を試すとか何とか言って、レイを説得したのだろう。
しかし切れ者宰相とも呼ばれる父のことだ。何か狙いがあるのは明らかだった。
「ユリウス様、その件は私から報告させて頂きます」
見かねた父の部下が割って入った。
部下の説明は次の通りだった。
レイは学園在学中に下級官吏登用試験の筆記試験を受けていた。俺と交流する前だ。
筆記も実技試験も最高得点だったため、上級官吏としてスカウトすると本人が断った。下級官吏になってやりたいことがあるという。
当時レイは王立研究所から論文が認められ、恩師ニール教授から論文の実証実験のプロジェクトに誘われていた。
論文は植物の遺伝子操作に関するもので、王都での実証実験を経て薬草へ実用化するプロジェクトとのこと。
レイは実証実験の一つを王都の孤児院の敷地内で行う事を提案し、官民共同プロジェクトとして立案、現在は王宮と王立研究所を繋ぐコアメンバーとして、プロジェクトに参加している。
王宮としては孤児院の継続的な事業に繋げて運営資金にしたい、王立研究所としては王都での最適な実証実験の場を確保したい、孤児院としては場所を提供することで王立研究所からの支援も期待できる……等、各所の思惑が一致。
彼女が下級官吏に登用するタイミングに合わせてプロジェクトが始動する。
プロジェクトが始まって既に半年以上、実証実験は順調に進み、実用化の決まった薬草が数種類あるそうだ。
孤児院は薬草の栽培方法を取得し、継続的な収入に繋げられる様に販路などを王宮がサポートする。
今まで薬草は人工栽培が難しく、供給が不安定で平民にまで行き渡らない高級品だった。だから薬も不足していた。
このプロジェクトにより王宮研究所は産業界から支援を受けて研究を拡大予定で、今後平民にも薬が入手しやすくなるだろうとのこと。
俺は目眩がしてきた。
レイからは事前に「ニール教授の手伝いをする」と聞いていたが、予想以上に大きな話だったからだ。
「興味深い案だからアレキサンドライトの好きにさせたが、予想外の成果を挙げよった」
父親は満足そうに言った。
それはそうだろう。
今回の成果は表向き宰相が主導したことになっている。レイ本人が目立つことを嫌がった結果とはいえ、王宮内での宰相の影響力は確実に強まっている。
宰相と度々対立する王弟殿下も、孤児院の運営の助けになるならば無用な手出しはしないはず。
父は外交能力で宰相に就いた切れ者だが、一方で内政への影響力は弱かった。
しかし宰相の革新的な政策の成果を示した今、内政への発言力が増すことだろう。
「アレキサンドライトはなかなか面白い娘だ。お前も見る目があるな」
父親の満足そうな顔を見てイラっとした。
そうは言っても心の中では「同じ王宮にいるならもっと早く気付くことができただろうに、まだまだだな」と思っているはず。
悔しいが、婚約者のことで浮かれている自分がいたことを認めざるを得ない。
「ならば父上、彼女を見出した功績に応じてお願いしたいことがあります」
そっちがその気なら、こちらにも考えがある。
俺は父にこちらが出した条件を全て飲ませて、部屋から退出した。
プロローグが長くなってしまいすみません。次で終わります。
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