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特使24 ヤン殿下2

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

謁見までに帰国の準備は整っていた。

予定した公務も終わり、残された時間はあと僅かだ。



私はヤン殿下と2人で庭園を歩く。

ヤン殿下から話があるということで、庭園の中には私達以外は誰もいない。

護衛官は庭園の外に配置されている。



ライオール殿下が「急な茶会の詫び」と称して、謁見の後に王子宮の庭園に招待してくれた。



たぶんこれもユリウス様の力だろう。



特使の離宮は基本的に王宮の管理だが、特使が使用する場合、離宮内は治外法権に近い。



昨晩ユエ執務官と話した夜会会場の昭国用控え室も、特使と関係者しか入室できない。

つまり、そこで私が監禁されても王宮側から手が出せない可能性があった。



しかし王子宮の庭園ならライオール殿下の権限内なので、何かあっても対処できる。



私は守られているな、としみじみ思う。



それと同じ安心感が、ヤン殿下にも必要なのだと思う。



「アレキサンドライト、短い間だが世話になっタ。お主は世が見込んだ通りの者だっタ」



「ヤン殿下、勿体無いお言葉でございます」



「だからこそ惜しイ。世と一緒に昭国に来ぬカ?」



「恐れながら、私は殿下と一緒に昭国に行ける身分ではありません」



「身分などどうでも良イ。お主が一緒にいると、全てが上手くいくのダ」



以前『身分など関係ない』と、ユリウス様が言って下さったことを思い出す。


ヤン殿下が同じ意味の言葉を下さったことに驚くと共に、純粋に嬉しいと思った。


同時に、なぜか胸が苦しい。



「恐れながら申し上げます。それは殿下の忠実な臣下の功績であり、私は少しお手伝いしたに過ぎません」



「お主のいうことは分かル。だがそれだけではないだろウ? 

お主は短い期間で我々と打ち解けタ。世と、共の者達とモ。

お主には人と人を繋ぐ力があル」



「買いかぶりでございます。

良い方々に恵まれただけのこと」



「なにより、お主なら世の気持ちをわかってくれるだろウ?

世はお主に一緒にいてほしいのダ」



私は殿下にハンカチを渡した時のことを思い出す。

あの時のことは今も後悔はしていない。



だからこそ気付いてほしい。

彼の真に求める者が誰なのかを。




「殿下、光栄にございます。

確かに殿下と私は親と死に別れたということで通じるものがございます。

それは、私よりももっと、殿下の事を想っている方も一緒です。

殿下もお気付きでしょう?」



ヤン殿下は僅かに目を見開いた。

彼は、私が何を言おうとしているのか察している。

やはりこの方は……。



「よ、世には分からヌ。

お、お主が何を言おうとしているのカ」



「殿下、もうご自分を偽らなくて良いのです。

わざと幼い振りをして、自分と臣下の身を守って来られたのはお辛かったでしょう」



「……」



殿下が呆然として、私を見ていた。


誰にだって触れられたくないことがある。

ヤン殿下のそれに、私は敢えて触れているのだ。

身の程を弁えずに。



「なぜそう思う?」



殿下の声は沈んでいたけれど、落ち着いた口調だった。

もう幼さはない。



「殿下と共に過ごした中でそう思いました。

殿下が聡明である事を隠されているのはなぜか。

自分達を狙う者から脅威と思われない様に振る舞われていらっしゃったのではないかと」



「よ、世はそんなことはない」



「殿下は私がクナイを触ろうとして諌められました。

あれが本来の殿下の姿ですね?

殿下は我が国の言葉を習得し、王宮の作法も短期間で身につけられました。

昭国ではその能力を見せることが出来なかった」



「……」



「もう幼い振りをする必要はなくなります。

そしてその様な振りをしなくとも、殿下の忠臣は殿下の側におります」



ヤン殿下は驚いた様に、私を見ていた。


届いただろうか?

これが彼に対して、私ができる最後のこと。



官吏としてなのか、

かつての自分を重ねてなのかは

今となってはわからない。



ただヤン殿下の無事を祈るものとして、

最後の務めをさせて頂く。


たぶん、もう、会えない。

身分的にも、そうでなくても。




殿下は沈黙した。

そしてゆっくり目を閉じ、下を向いて、長く息を吐いた。


瞬間、一気に気圧される。


目の前の方の雰囲気ががらっと変わる。

立っているだけで周りを圧倒するようなプレッシャー。

生まれついて高貴な方が持つ独特の雰囲気。



先程までの和やかさはない。

肌がピリピリするような緊張感が、場を包む。



「驚いた、まさか数日過ごしただけの其方に見破られようとは」



切れ長の黒い瞳が、こちらを見据える。

黒曜石のような、光沢のある黒。

そこに宿る意思は、今までに見たことがない程に強い。


その時、私は初めて、本来のヤン殿下と対峙した。

ここまでお付き合い頂いた皆様、いつもありがとうございます。特使編もあと6話になります。

彼らのこれからを見守って頂けると嬉しいです。

評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。

ありがとうございます^_^

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