特使22 計画
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
ユリウス様には予め今回の計画を相談してあった。
ヤン殿下を襲撃したのは昭国の同行者、ならば警備を強化した特使の離宮内でヤン殿下を害すことは難しいはず。
そのためヤン殿下が離宮外へ出て護衛が手薄になるタイミングを見計らって動くと考える。
特使滞在の日程を考えれば、夜会しかない。
もちろんそれに合わせてユエ執務官とシャオタイ護衛長が動くだろう。だからその時までに、昭国と取引できる材料を揃えておきたかった。その材料が密輸品だ。
クローディア公爵閣下の外交能力で昭国の詳細な情報を集めてもらい、今回の特使派遣に伴う我が国への密輸を阻止する。
王宮では基本的に武器を持ち込めない。また騎士として登録があるものしか武器の携帯が認められていない。
だから特使団を王宮に迎え入れる際は、使節団の人員や持ち込まれる荷物を厳しくチェックする。
護衛官として登録された者ならまだしも、文官として登録された者がクナイを持込むのは無理なはず。ましてや毒が塗ってある武器なら、厳しいチェックの中、隠して持込むにしても取扱が難しいはず。
ならば密輸された可能性があると思い付いた。
一度受け入れた特使団の人員が王宮の外に出る場合は記録が残る。王宮に戻る場合に簡単な身体検査はあるが、形式的なものなので、クナイくらいの大きさの武器なら持ち込めるのではないかと考えた。
そのために閣下にはヤン殿下とユエ執務官の身辺情報、及び全ての同行者の足取りを追ってもらった。
同行者の中で港に行った者が数名おり、うち2人は襲撃犯、残りは密輸品を流す役目だったようだ。
港の警備に当たっているジーク隊長の協力のおかげもあり、何とか夜会が始まるまでに密輸品と関わっていた者を捕えた。
調べたところ、密輸はヤン殿下を陥れたい派閥の仕業だったので、ヤン殿下の暗殺未遂と共に敵の派閥を糾弾する材料として、クローディア公爵が確保。
この貸しで、我が国が昭国との貿易を有利に進められるだろう。
昭国には我が国にはない薬や医療の技術がある。例えば香の技術は薬としても使える。
ユエ執務官が使用した術は魔術や魔法の類いではなく、昭国の医療技術の応用に近いものと推測する。だから王宮の魔術探知に引っ掛からなかった。
ユエ執務官が王宮内の誰と通じているかは既に予想がついている。
ユエ執務官は2度、ある上級官吏と個人的に会っていた。
王宮内でユエ執務官の姿は目立つ。黒髪黒目ということもあるが、なかなかの美丈夫なのだ。
ヤン殿下の取り巻きの1人として紛れている時はわざと目立たないようにしているのだろう。
しかしながら外交トップの宰相閣下が昭国の正式な取引相手として名乗りをあげれば、ユエ執務官は宰相閣下を選ぶだろう。
我が国の最有力者との繋がりは望むところだろうし、昭国のヤン殿下を陥れたい派閥を追い詰める密輸の証拠も有している。
ヤン殿下を次期国王に擁立する際に我が国の確かな後ろ盾があれば、昭国内の混乱も少なく貿易への影響も抑えられる。
宰相閣下はこれを機に、我が国の密輸に関わる貴族を検挙し、ルートの解明に乗り出すつもりだ。
ユリウス様がダンスの最中に教えてくれたのは、密輸品と関係者の確保の件だった。
そうこうするうちに、馬車がクローディア公爵家別宅に到着する。
使用人の方々は私の衣装を珍しいがってくれた。
帰宅の挨拶もそこそこに、ユリウス様に手を引かれて部屋に入る。
部屋の扉を閉められるなり、ユリウス様に後ろから抱き締められた。
「あの、ユリウス様、王宮に戻らなくてよろしいのですか?」
「今日はこちらに泊まる」
そう言うが頸に口付けられる。
「あっ、ユリウス様、待って」
「この髪型は他の男の前でしないでほしい」
今日は衣装に合わせて髪を上げていたので首筋が見えているのだ。
「わ、わかりましたから」
急に髪が解かれる。
私はユリウス様を見上げる。
アイスブルーの瞳がこちらを見ていた。
「今日の衣装も良く似合う。本当は誰にも見せたくない」
「私がこれを着るのは今日だけです」
「じゃあ、見納めか」
そう言いながら頬に手が触れる。
私はユリウス様の方に身体を向ける。
私が手を伸ばすと、彼の耳にある魔導具に触れた。
そう、いつも彼が守ってくれるのだ。
何という安心感だろう。
誰かを頼りにする日が本当に来るなんで、あの頃の私には思っても見なかった。
唇が優しく触れる。
こうして触れ合うのも久しぶりだと思った。
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