特使16 噂
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「アレキサンドライト、何をしているのダ?」
シャオタイ護衛長と別れた後の私に、ヤン殿下が声を掛けられた。
「また辞書を持って誰かと話していたのカ?勉強熱心なことダ」
「殿下、私はこれデ。
アレクさん、殿下をよろしくお願いしマス」
ユエ執務官が挨拶をして、その場を去る。
私はその後ろ姿を見ながら、思った。
ヤン殿下の側に私が居る時、ユエ執務官は席を外されることが多い。
ユエ執務官にも仕事があるので不自然ではないが……。
同行者を探っているのだろうか?
「アレキサンドライト、世が直々に昭国のことを教えてやろウ」
殿下のお言葉に甘えて、私は昭国のことを色々質問した。
ヤン殿下と話していて感じるのは、殿下は物事を良く理解しているということ。だから説明がとても分かりやすい。
しかも博識だ。
文化の違いから草花の生育範囲に至るまで、何でも答えてくれた。
「殿下、大変勉強になりました。ありがとうございます」
「アレキサンドライトと話すのは楽しイ。特に思考が飛躍するところが面白いナ」
確か、前にも誰かに言われたことがあるな。
あれはクローディア前公爵閣下に初めて会った時だったか……。
何故か昨日のユリウス様の事を思い出した。
ユリウス様が差し出した花を思い浮かべる。
それはヤン殿下からお礼と称して頂いたピンクの花。
私は花の意味を考えないようにしている。
今は目の前の職務に集中したい、という気持ちがあるから。
あと……その意味を見出してしまえば、たぶん今のままの自分ではいられないだろう。
臆病な私は、そういう予感に敏感なのだ。
✳︎
ヤン殿下が離宮から出ないせいか、新たな襲撃はなかった。
そして、ようやく特使団と王宮の連携が取れるようになってきたことを実感する。
昭国の特使団だけを特別扱いすることなく、王宮側の仕事が順調に遂行される様になってきたのだ。
私も特使付きの官吏として、職務の手応えを感じつつある。もちろん私が個人的に進めている件も。
一方で、王宮内では私がヤン殿下と恋仲になったと密やかに噂されていたようだ。
最近の私は特使の離宮からあまり出ないため周囲から不審に思われたのかと思いきや、ヤン殿下の寝室に2人きりでいたことが漏れたらしい。
寝室に入ったのは事実だから私は反論しない。
しかもヤン殿下が狙われたことは王宮の一部の者しか知らない状況だ。他国の特使の手前、明らかにはできない。
通常、噂はエスカレートするものだが、昭国付きの王宮侍従や侍女が率先して否定してくれている。
彼らも襲撃のことは知らない。
ベテランの侍従や侍女の方々ばかりで、年下の私を娘のように気遣ってくれる方々なのだ。
私のことを庇ってくれて嬉しいが、同時に噂のことで心配させてしまい申し訳ない気持ちになる。
特使の離宮内は基本的に治外法権で、王宮の担当者も簡単には入れない。
この手の噂はある程度身内から漏れるものだが、今回は王宮側のスタッフ以外から噂が広がったことがわかる。
実に作為的だ。
その狙いが私だとしても、まだ舞台から降りるわけにはいかない。
向こうがその気ならこちらも逆手に取らせてもらう。
そして残す公務は、各国の特使が一堂に会する、王家主催の夜会のみとなった。
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