プロローグ2(レイ視点)
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私、アレキサンドライト・セレスは途方に暮れている。
この状況を打開できる策が考えつかない。
ユリウス様はかなり怒っていらっしゃる……。
✳︎
まもなく勤務終了になる時間、聞き覚えのある呼び声に振り向くと、その人はいた。
私の婚約者であるユリウス・クローディア公爵子息。
銀色の髪とアイスブルーの瞳、母親似の美貌の持ち主で、王立学園では『氷の公爵様』と呼ばれていた有名人だ。
筆頭公爵家の嫡男であり第二王子殿下の側近である彼は、いわば雲の上のお方だった。
色々あって身分の差があることを承知で、私は彼の側にいることを望んでいる。
私と目が合うと彼は半ば呆然としていて、私はとても申し訳ない気持ちになった。
その後は大変だった。
ユリウス様に無言で手を引かれて連れて行かれる私、連れて行かれた私を心配する同僚達、それを宥めて収拾をつけるリブウェル公爵子息。
ライオール殿下だけが面白そうに腹を抱えて笑っていた。
ユリウス様は一ノ宮を出て、今は使用されていない離宮の方に向かう。官吏は立ち入れないエリアで人気がない場所だ。
いきなり手を離され、私は壁に背を押し付けられる。ユリウス様がいつもより手加減のない力なので、私は内心驚く。
相当に怒っていらっしゃるようだ。
自業自得なのは十分分かっている。
伯爵令嬢ながら王宮の官吏になって半年以上、ユリウス様に黙ったままだったのだ。
官吏になってやりたいことがあるとはいえ、またそれに賛同して応援して頂いている彼の父親の指示があったとはいえ、婚約者である彼に黙ったままにしていたことはすごく反省している。
普段温厚な彼を、本気で怒らせてしまったことを後悔してももう遅いけど。
ユリウス様が壁に手を突く。
私は壁を背に、左右に逃げられなくなった。
これはシルフィーユ様をモデルにした恋愛小説に書いてあった『壁ドン』だろう。だが今は全くロマンティックなムードではない。
自分から謝るべきなのに彼を見ることができずにいる。
だって、いつものユリウス様と違いすぎて、今は彼を直視出来ない。
先程の手を引かれる強さも、壁に押し付けられた荒々しさも、私の知らないものだった。
いつも穏やかな彼が怒っている時を見たのは、過去に一度だけ。その時は私を守ろうとしてくれていた。
今更だが、私は彼を『男の人』だと実感してしまう。
そして自分にとって未知の者を前に、この状況から早く抜け出したいと思っている。
私が目を逸らしたままでも、彼が不機嫌この上ないことが伝わってきて、空気が氷点下に下がるのを感じた。
「……レイ」
「……はい」
「……どうして教えてくれなかった?」
「……ごめんなさい、ユリウス様」
「……父上の差し金だな?」
私は思わず顔をあげて、ユリウス様を見た。
ユリウス様は私を真っ直ぐ見ていた。
アイスブルーの瞳に私が映る。
「……公爵様は悪くありません。私がお願いしました」
「……」
「私が、ユリウス様の側に居られる様に努力したかったのです」
「……」
「黙っていてごめんなさい」
「……」
沈黙が重い。
当然だろう。これでは説明にもならない。
分かっていたはずだ。
黙っていることで傷付けることになるって。
大事な人なのに。
きちんと彼に向き合わなくては!
ユリウス様に誠心誠意謝って、それから官吏になったことを理解してもらう他ない。
「ユリウス様、あの」
急に顎が持ち上げられる。
ユリウス様の顔が近い。
彼の瞳に今まで感じたことのない獰猛な気配を感じる。
私は後ろに逃げようとするが壁があり、他に逃げようとしてもユリウス様の手がそれを許さない。
「んっ」
急に口が塞がれる。
噛み付く様なキスだった。
いつまでそうしていただろう。
今まで感じたことない荒々しい行為に、頭がおかしくなりそうだった。
他の事を考える余裕がない、目の前の人しか考えられない強制力。
やっと唇が離された時、私は立っていられなかった。
崩れ落ちる私を、彼が抱き止める。
激しい鼓動を鎮め、息が整ったところで、私はおずおずと声をかけた。
「……ユリウス様、黙っていてごめんなさい」
「悪いと思うなら、俺の側にいてほしい」
彼の腕が強まる。
「はい。できるだけ側にいます」
「それ、『できるだけ』は訂正して」
「て、訂正?」
「『ずっと』側にいて」
「……はい」
「ならば今日から一緒に住もう」
「えっ⁈き、急には無理です」
私は慌てて身体を離そうとして、また壁に押し当てられた。
「『ずっと』側にいてくれるって言っただろう?」
彼は妖艶に微笑んだ。
アイスブルーの瞳にまたあの気配を見る。
「待って、んっ」
またもや口を塞がれ、私は記憶が飛んだ。
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