特使15 シャオタイ護衛長
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「殿下、とてもお上手です。ダンスの教師が殿下の飲み込みの速さに驚いておりました」
「そうカ?やってみるとなかなか面白いものダ」
夜会までの間、ヤン殿下は毎日ダンスの練習の時間を作られた。
ヤン殿下は大変覚えが良かった。
昭国にはダンスの習慣が無いというのに、あっという間にステップを覚えてしまう。
しかも手足が長いのでダンスが映えるのである。
しかもダンスだけではなく、王宮の夜会の作法もすぐに習得してしまった。文化の違いを分かった上で理解するのだから、本当にすごいと思う。
母国語とは違う我が国の言葉を習得していることからも、殿下は元々の能力が高いのだろう。
衣装の調整も含めて、夜会になんとか間に合いそうだ。
「ダンスの練習は楽しイ。アレキサンドライトの瞳を近くで見られるからナ」
「冗談を言う余裕がおありとは。これならダンス中にお相手の方とお話しすることも問題ありませんね」
「ははっ、許セ、昭国にはない文化だから新鮮なのダ」
昭国で人と直接触れ合うのは親愛表現になるらしい。握手する文化はあるが、それ以上の接触で、特に相手が異性の場合は愛情表現になるのだとか。
なるほど。
こういうことは辞書に書いていないから、とても勉強になる。
私は特使の離宮内にいる間、王宮図書館から借りた辞書を持ち歩いている。
特使団の中には我が国の言葉を話せない人もいるので、辞書を使って単語のやり取りをしながら交流している。
以前より待遇が改善されたとはいえ困り事がないか、特使団の方々とコミュニケーションを取って確認するように努めているのだ。
特にシャオタイ護衛長は、我が国の言葉について単語数個程度しかわからないという。だから業務に必要なことは、いつもユエ執務官が通訳している。
それ以外のコミュニケーションについて、私は辞書を片手にシャオタイ護衛長とやり取りする。
彼は誠実で、私を最初から「容姿で気に入られただけの小娘」扱いしなかった。
そして優秀な武人で、ヤン殿下に忠誠を誓っている。
それは例えるなら、騎士である兄が王太子殿下に忠誠を誓うのと同じ。
優れた武人が自分の命を預けられる主君を持っているということ。
だから彼の言うことに嘘がないと信じられる。
同時に、ヤン殿下が命を預けるに値する主君であることを示している。
シャオタイ護衛長に、私が不在の時の離宮の様子を尋ねると「大概ユエ執務官がヤン殿下の側についている」と答えた。
シャオタイ護衛長とユエ執務官はヤン殿下の母君に見出され、ヤン殿下の側近になったそうだ。2人は子供の頃に出会って、かれこれ20年くらいの付き合いだとか。
特にユエ執務官はヤン殿下が生まれる前から殿下の母君に仕えていたそうで、昭国の内政にも通じているらしい。
本人は出世しないであくまで一官吏として、ヤン殿下の側仕えを希望しているとか。
私がシャオタイ護衛長とやり取りしていると、庭園を歩くヤン殿下とユエ執務官の姿が目に入った。
ヤン殿下が楽しそうに話しかけ、ユエ執務官が少し後ろを歩きながら頷く。
ヤン殿下は、着任初日に私に向けていた様なキラキラした目をしている。幼くて、我儘を言う殿下。
一方のユエ執務官はニコニコしているが、なんというか慈愛に満ちた笑顔だ。
親が子供を見守る様な、兄が幼い弟を慈しむ様な。
ああいう、穏やかな顔もできるのだな。
私が「ヤン殿下とユエ執務官はまるで兄弟のように仲が良いのですね」とシャオタイ護衛長に伝えると、彼は曖昧に笑って護衛の任務に戻ってしまった。
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